ゆるやかな曲線を描く、全面ガラス張りの建物。開放的な社屋が生まれた理由とは?
JR三島駅北口に、白い路面と木々の緑が目を引く一角がある。昨年完成した、静岡県三島市の建設会社・加和太建設の本社だ。土木、建築、不動産のほか施設運営やまちづくりへの事業拡大、社員数の増加に伴って建て替えた。
設計は、豊島美術館(香川県)や金沢21世紀美術館(石川県)などを手がけた建築家の西沢立衛さん(59)。富士山の麓にある三島の自然に感銘を受けたといい、まちと調和する開かれたオフィスをコンセプトとした。
設計開始は2019年。飲食店やホールも備えた5階建て社屋の設計が進んでいたが翌年、コロナ禍に直面した。河田亮一代表取締役(48)は「地域にない機能を備えて人を集める場ではなく、三島を訪れるきっかけになるような建物にしたい」と社屋のあり方を再考。本社機能の一部を駅南のビルやリノベーション物件に置く「分散型本社」を提案した。
提案を受けて西沢さんは「この状況を活力に変えようとするタフさを感じた」と賛同した。2階建てに変更したことで、「様々な業種の人が行き交う場として、活気や多様性という生命的なイメージがより鮮明に表れた」という。出入り口を複数設け、1階から屋上までいくつものルートで行き来できるようにした。
たなびく雲のようにも見えるのは、スラブと呼ばれる鉄筋コンクリート造の床と屋根。曲線形のスラブ2枚が広がり、テラスや軒下の空間をつくる。テーブルやいすが置かれ、仕事をしたり休憩したりする姿も。
屋内にも様々なタイプの座席を配置し、仕事をする場所を自由に選ぶ「フリーアドレス」を導入。1階は全国の建設会社とスタートアップをつなぐ交流拠点などの開かれた場に。外から建物を見学する人、観光客もいるという。
「様々な活動が入り交じり、活気を感じられる」と河田さん。三島を訪れた人や社内外の活気が、まちへと広がっていく――。そんな展望を描く。
(木谷恵吏、写真も)
DATA 設計:西沢立衛建築設計事務所 《最寄り駅》:三島 |
三島市街地には約1万年前の富士山噴火で流れ出た溶岩や、富士山からの湧水が見られる。駅南口の市立公園・楽寿園から約1.5キロを流れる源兵衛川は年間を通じて水温15~16度ほどという。木製デッキや飛び石の散策路が整備されている。