都内屈指の高級住宅地、港区白金台に、重厚な西洋建築がそびえ立つ。港区立郷土歴史館や、がん患者の緩和ケア施設が入る複合施設「ゆかしの杜」だ。
1938(昭和13)年に建てられた旧公衆衛生院の建物を保存活用し、2018年に開館した。
地下1階、地上6階、塔屋4階建て。延べ床面積は約1万5千平方㍍。正面玄関を起点に、左右の建物がゆるやかに前へ開きながら張り出し、前庭を包むようなU字形デザイン。茶褐色の外壁は、溝模様のスクラッチタイル張りで、垂直線を強調したファサード(正面の外観)が目をひく。
手がけたのは、東大の元総長で、東大安田講堂などを設計した内田祥三(1885~1972)。欧米の大学にみられるゴシック建築から着想を得たもので、「内田ゴシック」と呼ばれる。
建物の材料には大理石や金属が使われ、「戦争色が濃くなった時期に、ぜいたくな材料を使い、この規模で建てられたのはすごい」と、歴史館学芸員の川上悠介さんは話す。
米ロックフェラー財団からの寄付で設立された公衆衛生院では、全国から公衆衛生の研究者らが集まり研究・研修を行った。その機能は「国立保健医療科学院」として2002年、埼玉県和光市へ移転した。
当時の港区長が、がん患者の緩和ケア施設をつくりたいと、廃校した小学校跡地と交換で東大医学研究所の横にあるこの建物と土地を取得した。
歴史館には暮らしや自然を紹介する有料の展示室と、当時の雰囲気を漂わせる無料の見学エリアがある。340席の木の長机が階段状に配置された旧講堂は、大半が当初の状態だ。旧図書閲覧室は、縄文土器やクジラの骨格標本に触れられる展示室として活用している。
5月からは、大正天皇の皇后が使用したという1903(明治36)年ごろ製の現ヤマハ製グランドピアノも展示中だ。定期開催される「建物ガイドツアー」で各エリアの見どころや活用の仕方を案内している。
かつて人々の生活や衛生環境の向上に貢献してきた「学び舎(や)」は、歴史の余韻と現代の営みを交差させながら静かに生き続けている。
(増田裕子)
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DATA 設計:内田祥三 子育て支援施設など 完成:1938年 《最寄り駅》:白金台 |
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徒歩約5分の瑞聖寺(ずいしょうじ)には、隈研吾建築都市設計事務所の建築で2018年に再建した「庫裡(くり)」がある。屋根を支える垂木、外壁の木のルーバーなど木材が多く使われ、回廊に囲まれた中庭には水盤がある(外からのみ見学可)。午前9時~午後4時半頃。