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私の描くグッとムービー

雑賀建郎さん(モーショングラフィッカー)
/「青春デンデケデケデケ」(1992年)

繰り返し見てしまうヘンテコさ

雑賀建郎さん(モーショングラフィッカー)/「青春デンデケデケデケ」(1992年)

 この「青春デンデケデケデケ」は1965~68年の香川県観音寺市を舞台に、主人公藤原竹良(愛称ちっくん)の高校時代が描かれています。ラジオから流れてきた米ロックバンド「ベンチャーズ」のエレキサウンドに魅了されたちっくんが、同級生たちと結成したバンド活動に情熱を傾ける物語。僕もベンチャーズやビートルズの音楽が好きな田舎の高校生だったので、ちっくんが受けた衝撃や感動に共感できたんです。高校生のころから20代にかけて繰り返し見ていた作品です。

 笑えるところもいっぱいあるんですよ。例えば、ちっくんらバンドメンバーが初めてセッション練習をするシーン。寺の住職の息子合田富士男の部屋でベンチャーズの「パイプライン」を演奏し始めると、まちを走る宣伝カーから橋幸夫の「潮来笠」が流れてくる。そこに合田富士男のお父さんがお堂でたたく木魚の音が重なるカオスな場面は、何度見ても爆笑してしまいます。ちっくんの妄想をいちいち映像にしているところもおかしくて、笑っちゃうんですよね。

 イラストに描いたのは、高校3年生のちっくんが受験のために上京するラストシーン。セッション練習の日、ちっくんの初デートの日にも現れた宣伝カーが、この日もやってくるんです。観音寺の女神として最後、お別れに来たのかも。こんなヘンテコなシーンがたくさん織り交ぜられている楽しい映画であることを伝えたいと思ったんです。電車に乗り込むちっくんの姿は、不安な気持ちを抱えて東京の受験会場に向かった僕の姿とも重なってグッときました。

(聞き手・尾島武子)

 

  監督=大林宣彦
  原作=芦原すなお
  出演=林泰文、大森嘉之、浅野忠信、永堀剛敏、岸部一徳ほか
さいが・けんろう
 島根県生まれ。雑誌、テレビ番組、ミュージックビデオなどで、似顔絵を用いたコミカルなイラストやアニメを制作。
(2020年10月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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