松尾貴史さん(俳優、タレント)
「裏窓」(1954年) ほぼ部屋が舞台。「制約」から広がる創造性、ヒチコックの妙。
「裏窓」(1954年) ほぼ部屋が舞台。「制約」から広がる創造性、ヒチコックの妙。
見た後も、劇中歌が自分の中に残る映画が好きです。高校生の時に、劇場のチラシにひかれて見た「バベル」もその1本。小学生でハマったアース・ウインド&ファイアーの「セプテンバー」など心底良い曲がたくさんですが、一番はラストシーンで流れる坂本龍一さんの「美貌(びぼう)の青空」です。
三つの地域の出来事が交差する本作の東京編は、菊地凛子さん演じるろう者・チエコが中心。母の死で父との間にできた心の溝や、健常者と通じ合えない寂しさが描かれています。チエコは孤独を埋めようと、事件を捜査する刑事を家に招き、裸で迫ろうとするも拒まれます。高層マンション最上階のベランダから遠くを見ていたチエコに寄り添った父。感情を抑えきれず涙があふれ出すチエコ。抱き合う2人の姿はどんどん小さくなり、高層ビルがひしめく夜景で終わります。坂本さんの音楽がセリフのないベランダのシーンと見事に調和し、チエコのやるせない気持ちをありのままに表現しているよう。強く心を打たれました。
バベルを見た後、「美貌の青空」を聞きながら新宿や渋谷を歩いて、頭の中でチエコを演じました。悲劇のヒロインになりきる活動を「悲ロ(ひろ)活」と呼んでいて、イラストはその様子。高層ビルがバベルの塔に見えました。悲ロ活をして悲しい主人公に感情移入すると、つらい事は自分だけに起こってるんじゃないと、自分の負の感情を俯瞰(ふかん)できてスッキリします。人生色々あるけど今日も頑張ろうと思える。それができるのが、僕にとって、映画館で映画を見ることなんです。
(聞き手・増田裕子)
![]() 監督=アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
制作国=米 出演=ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、役所広司ほか
さかぐち・りょうたろう 1990年、兵庫県出身。連載エッセーを書籍化した「今日も、ちゃ舞台の上でおどる」(講談社)を6日に発売。
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