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私の描くグッとムービー

おがわじゅりさん(イラストレーター)
「黒馬物語」(1994年)

馬と出会い、生まれた幸せ、支えに

 描いたのは、主人公の優しい黒馬ブラック・ビューティーとちょっと気むずかしい牝馬ジンジャー、利口なポニーのメリーレッグスの3頭。人間の都合でバラバラの生活になってしまいますが、3頭が走り回って一緒に戯れる幸せな場面が、冒頭と終盤に2度登場します。
 ビューティーの視点で物語が進むこの作品は、19世紀後半の英国が舞台。まだ、人間が馬と生活するのが当たり前の時代で、馬を道具としてしか扱わない人もいれば、家族のように接する人も。ビューティーは良い出会いとつらい経験を繰り返す一方、ジンジャーは幸せな描写があまりないまま亡くなってしまいます。馬の人生って人が握っている部分もあるんでしょうね。
 ビューティーは市場に売り出され、最終的に最初の牧場で世話をしてくれたジョーと奇跡的に再会します。私にも似た経験があります。昔、東京・町田の乗馬クラブで働いていた時、気が合う馬と出会ったのですが、クラブの閉鎖で別れてしまいました。数年後、働いていた相模原の乗馬クラブで1頭迎え入れることに。「新しい馬が来た」と聞き馬房へ向かうと、前のクラブで可愛がっていた馬が立っていました。いつか引き取りたいと思ったその馬は、後に病気で手術をし、一時は回復したものの、安楽死となりました。でも蹄鉄(てい・てつ)と健康手帳を譲り受け、大切に保管してあります。
 有名じゃなくても、ある馬が誰かにとってヒーローだったりする。自分の描く競走馬や引退馬が、誰かの支えになりますように。日々、そんな思いを込めています。

(聞き手・大石裕美)

 

  
 監督キャロライン・トンプソン

 制作国=米

 出演ショーン・ビーンほか

 

 1978年生まれ、神奈川県出身。日本中央競馬会(JRA)の競馬場内の壁画や公式グッズのイラストを手がける。著書に「元競走馬のオレっち」(幻冬舎コミックス)など。 
 
(2025年7月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)

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