「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」(2014年) 手際よく調理するシーンに「絶対いい映画」と確信。強すぎる料理への情熱が詰まったフードトラックをクッキーに。
アキ・カウリスマキ監督の作品が好きです。映画にどっぷりとはまっていた25年ほど前、ミニシアターの京都みなみ会館に通ってたくさん見ました。中でも「愛(いと)しのタチアナ」は、カウリスマキ作品の看板俳優マッティ・ペロンパーの遺作。彼のポーカーフェースから湧き出る怪しさが、とても好きです。
マッティ演じるロックンローラー気取りの修理工は、コーヒー中毒の男と車の旅に出ます。序盤は酒やコーヒーをがぶがぶ飲みながら武勇伝を語って楽しげな様子ですが、途中で女性2人組を乗せると一変して無口に。おじさんたちのぎこちなさがかわいらしく、思わず噴き出してしまいました。大人の嗜好(し・こう)品をこよなく愛しているのにどこか子どもっぽい内面が垣間見えたので、イラストには4人を乗せて走る車のミニカーとたばこを描きました。
ほぼ会話のない4人の旅は淡々とオフビートに進みます。セリフや表情から読み取れる情報量は少ないのですが、じわじわと人間味や哀愁を感じて引き込まれていきます。4人がただ無言で座っているだけの場面も面白い。私はこれまで時代小説の挿絵を多く描いてきましたが、この映画のように情報量を抑えながら伝えたいことを伝える表現を大事にしています。
カウリスマキ監督は本作を含め、故郷フィンランドを舞台にした映画を多く手がけています。登場するのは、ひょうひょうとした市井の人々。寂しい雰囲気の中に芽生えた小さな幸せが描かれていて温かな気持ちになります。
(聞き手・木谷恵吏)
監督=アキ・カウリスマキ 製作国=フィンランド 出演=カティ・オウティネン、マッティ・ペロンパーほか むらた・りょうへい 1977年静岡県生まれ。京都市在住。主に書籍の装画や挿絵を手がける。近作に「木挽町のあだ討ち」(永井紗耶子著)の装画、新聞小説「春かずら」(澤田瞳子著)の挿絵など。 |