人のセックスを笑うな(2008年) 画学生たちのけだるい日常。ダメでカッコ悪くったって、いいじゃない。
映画に登場する乗り物や駅の風景、街並みに心ひかれることがあります。どこだろう、行ってみたいなと思って調べてみることも多いです。
「事件」の舞台は、実家がある神奈川県藤沢市の近く。6~7年前に初めてこの映画を見た時、子どものころ目にしたであろう風景が生き生きと映っていて驚きました。物語は、恋人の姉を殺した罪で逮捕された青年の裁判が中心。じっとりとした湿気を感じる画面と、その中で展開する法廷劇も見応えたっぷりなのですが、随所に織り込まれた風景にひきつけられました。
ふだん鉄道や車を題材にした絵本を作っていることもあり、ひと昔前の乗り物も気になります。オレンジと緑のツートンカラーの東海道線は、よく写真を撮った懐かしい色形。オレンジ色のラインが入った神奈川中央交通のバス、青年が駆け落ちするために借りた軽トラック……。「ちょうご」や「ふじさわ」の駅名板もいい。ぽってりとした字形が懐かしいです。
青年の実家は、新幹線の線路沿い。新幹線が通過する瞬間を狙って撮影したような場面が何度かあります。野村芳太郎監督は松本清張原作の「砂の器」や「張込み」など鉄道が登場する作品を手がけていますが、「事件」も乗り物が印象的に物語を進めているような気がします。
イラスト中央の自転車を押して歩く男は、劇中に登場する青年の姿なのですが、ぼく自身を重ね合わせています。親しみのある風景の中に分け入り、映画の中を散歩しているような気分になったからです。
(聞き手・木谷恵吏)
監督=野村芳太郎 脚本=新藤兼人 原作=大岡昇平 出演=永島敏行、松坂慶子、大竹しのぶ、佐分利信ほか おかもと・ゆうじ 1971年神奈川県生まれ。尚美学園大学情報表現学科教授。絵本「でんしゃにのったよ」「でんしゃ すきなのどーれ」、版画「四ツ谷駅」ほか。 |