佐々木昂さんインタビュー
少女や動物のイラストを描く佐々木昂さんがイラストレーターの道へ進んだきっかけとは。
実際の事件を元にした映画です。緒形拳演じる主人公は、敬虔(けいけん)なカトリック信者である父親の表面的なモラルにつくづく反抗心を持っている。そのせいか全国を転々としながら殺人と女性遍歴を重ね、何かにあらがい続ける。神を否定するのは、根っこで信じているから意識せざるをえないのかも。僕は子どもの頃、神様に始終監視されているという妄想に取りつかれて、すごく苦しんだことがあるんです。主人公にも神の監視から出たいという息苦しさが、過剰にあったんじゃないかと。
特に印象的なのは最初の殺人場面。カメラはただ引きで映すんだけど、血の噴き出し方や痛がり方がものすごくリアル。主人公は血の付いた手を自分の小便で洗い、そのまま柿をもいでかじる。殺すことと食うことを同じ流れでするのが衝撃的です。恨みもない相手を殺す主人公の行動が理解できないんですよね。不条理なものを見せられた強い困惑の後、その理由をずっと考えさせられます。恨みより根源的な、何か哲学的な意味を秘めているんじゃないか。初めて見た高校生の頃の松尾はそう思い、62歳の今でもわからないままです。
緒形拳の演技が時々チャーミングで喜劇的に描かれていて、そのブラックユーモアを映画館で笑った記憶があるんです。グロテスクさや暴力性と笑いを共存させる表現は、僕の書く戯曲と近しいものを感じます。過去や現在を行き来する複雑な劇構造を好むのも、この映画の影響があるはず。今も年に1度は見ていますが、各登場人物の視点を通じて非常に多面的な見方ができるので、いつまでも飽きません。
(聞き手・中村さやか)
![]() 監督=今村昌平
脚本=馬場当 原作=佐木隆三 出演=緒形拳、三國連太郎、小川真由美、倍賞美津子ほか
まつお・すずき 1962年、福岡県生まれ。九州産業大芸術学部デザイン学科卒。「大人計画」主宰。作・演出を手掛ける一方、2年前に個展も開催。
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