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私の描くグッとムービー

麻田弘潤さん(僧侶、消しゴムはんこ作家)
「阪急電車 片道15分の奇跡」(2011年)

ふれあい生まれる「ご縁」 前に進む原動力

 長く座り続けることが苦手で、映画はあまり見ません。でもこの作品は、学生時代に過ごした関西での思い出が懐かしく、自然と入り込めました。

 片道わずか15分の阪急電車。偶然出会った見ず知らずの人たちが、寄り添ってくれた他人に、傷ついた心を開示する。交わした言葉があとからじわりと効いてきて、気がつくと前に進む原動力になっている。僧侶として、仏教思想に近いものがあるなと感じました。人生は予測不可能だけれど、電車を通して全く関係のない人たちのわずかな接点を捉えている。僕が今、伝えたいことのヒントになっていると思いました。
 結婚が破談になったり、彼氏からDVを受けていたりと、全然いいタイミングじゃないのに、結果いい出会いになっているのも面白い。僕も、2004年の中越地震の際は悲惨な体験をしました。でもその時の出会いや行動がきっかけで、僧侶をしながら消しゴムはんこ作家としての道が開けました。のちに災害ボランティアで訪れた東日本大震災では、ワークショップ中、はんこを彫りながら壮絶な体験を語ってくれた方もいました。悩みを聞く場ではなくても、自然と自分のことを静かに話し出す。まさにこの映画と重なる場面でした。
 物語から感じる優しさは、仏教で言うところの「ご縁」「縁起」。それを消しゴムを丸く彫って表現しました。重なった部分に「ふれあい」が生まれますように。良縁、悪縁と決めつけず、まずは出会いを受け入れてみる。そうすることで、思いがけず道が開けていくこともあるんじゃないかと思います。

(聞き手・片山知愛)

  

 
 監督=三宅喜重

 原作=有川浩    

 脚本=岡田惠和 

 出演=中谷美紀、戸田恵梨香、宮本信子ほか

 

  あさだ・こうじゅん 1976年生まれ。新潟県小千谷市の極楽寺で住職を務める。29日~9月6日、築地本願寺「MONK ART GUDO」展に参加。 
(2025年8月22日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)

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