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万葉集は、奈良時代のSNS
佐々木良さん

 

 2020年8月、新型コロナ対策として支給された特別定額給付金10万円を資本金に、一人出版社「万葉社」を高松市に立ち上げた、という佐々木良さん。初版500部で出版した「愛するよりも 愛されたい」が話題を呼びます。「万葉集の時代の、旦那の不倫っていうと、20 歳ぐらいが不倫している。そうやって詠み手が若いんだから、令和の時代との年齢合わせみたいなことをしたかったんです」と佐々木さん。はじめは「誰が買うねん」と思っていたそうですが、続編「太子の少年」「式部だきしめて」と合わせて25万部突破のベストセラーに。著書のタイトルはいずれも、KinKi Kidsのヒット曲のアレンジだとか。

(聞き手・島貫柚子)

※佐々木良さんは3月21日付け朝日新聞夕刊「グッとグルメ」に登場しました。 

 

 

 ――「愛するよりも 愛されたい」面白かったです。取材日今日はバレンタインデーですが、万葉集が編まれた時代にも恋愛イベントはあったんでしょうか。

 男女が夜な夜な集い、求愛歌を披露しあって踊る「歌垣(うたがき)」という会がありました。今でいうクラブみたいな感じです。2巻「太子の少年」冒頭で紹介していますが、わりとエッチな会だったようです。「うちの妻に他の男がナンパしてきてもいいし、俺もするし」みたいな歌があるんですよ。

 

巻九 1759番歌

【原文】鷲の住む 筑波の山の 裳羽服津の その津の上に 率ひて 娘子壮士の 行き集ひ かがふかがひに 人妻に 我も交はらむ 我が妻に 人も言問へ この山を うしはく神の 昔より 禁めぬわざぞ 今日のみは めぐしもな見そ 事も咎むな

 

【令和語訳】山のふもとで 男女が集まってパーティーしてるから、 勝手にまじって みんなでXXして楽しもうや! うちの嫁ハンもタイプの男おったらXXしたらええねん。オレもXXするし。歴代の県知事も「たまにはええやん」っていってくれてはるし。警察の方々、今日だけは堪忍しておくれやす。

 

――え、夫婦でその場に参加するんですか。

 そうそう。貴族に限らず、いろんな身分の人も参加します。平安時代になってくると貴族の暮らしに御簾があって、みたいなイメージですが、奈良時代はそんな身分身分していなかったというか。いろんな人が身分を超えて歌を送りあっていたようです。ふわふわ~っとした集落ですね。

 

――歌会は定期的に行われるものでしょうか。

 春になったらやるとかあるかもしれません。まさに「令和」の元号の由来になった「梅花の歌」、あれは男性だけが集う歌会で詠まれた歌です。熊本県や佐賀県などの代表者が太宰府に集まって歌いあっていました。

 

――男性だけのこともあるんですね。

 「歌会」は地方役人の知事会みたいな感じ、「歌垣」は男女いろんな身分の人が集まって行うエッチな会。これは僕にとっては、ほんまクラブハウスみたいな感じですね。

 

――奈良時代は、歌のうまさがモテにつながるんでしょうか。

 ああー……。どうなんですかね。奈良時代は、歌はそんなに上手くないというか、結構雑なのが多い。平安時代になってくると百人一首に載るようなすぐれた作品が出てくるんですけど、奈良時代は初めて和歌を書き記したので、「自分の感情を五七五七七 に収めて書き記せるなんて面白い」みたいな感覚でやっていたんだと思います。だから「フラれてムカつくとか」「俺イケメンやのに」とかを五七五七七に入れていて、すごい雑味があるというか、今のSNSっぽいところがあるんです。「この文字数で入れちゃう」みたいな。あとは五七五七七じゃなかったりもします。五七五七七七(仏足石歌体)とか。凝り固まってないというか、自由さがうかがえる感じはしますね。

 

――著書 に収めた歌の中でお好きな歌はありますか。

 これですかね。

 

巻十一 2414番歌

【原文】恋ふること 慰めかねて 出でて行けば 山を川をも 知らず来にけり

【令和訳】え? ここどこ?

  「何してんねん」って。

 

――場所が分からなくなってしまった、とかそういう状況なんでしょうか。

 恋をしていた男が、フラれちゃったんで山を越え川を越え、知らないところに来てしまった。そこで一首。

 

――(笑) 激怒した女性が、不倫相手の家を焼いてやろうか、と詠んでいる歌、あれも怖かったですね。

 はいはいはいはい。夫が不倫していて、妻の私は嘆き続けてやるっていう、めちゃめちゃ怖い歌なんですよね。原文を見てもらえば分かると思うんですが、「醜(しこ)」っていう言葉が何個も出てくるんです。

 

巻十三 3270番歌

【原文】さし焼かむ 小屋の醜屋に かき棄てむ 破れ薦を敷きて 打ち折らむ 醜の醜手を さし交えて 寝らむ君ゆゑ あかねさす 昼はしらみに ぬばたまの 夜はすがらに この床の ひしと鳴るまで 嘆きつるかも

【令和訳】クソッ!! うちの旦那が不倫してる! 不倫相手の みすぼらしい家を 焼いてしまいたい…… 汚いみじめな布団も やぶり捨ててやりたい…… 醜いあの女の 汚い腕をへし折ってやりたい…… 今ごろふたりは抱きあって 寝てるにちがいない! ああ 憎たらしい…… 朝から晩まで 床がギシギシ鳴るまで嘆きつづけてやる……

 

 「百人一首」や「古今和歌集」は良い歌ばっかり収めているんですけども、万葉集は、いろんな歌が20巻、4500 首もあるんです。ありえないぐらいの膨大な量を、こんなんもあります、こんなんもありますって雑に放り込んでる感じです。良いから入れてるんじゃなくて、あるから入れている。

 天皇の美しい歌もあるし農民がフラれた話もあって、万葉集を見るとすべての人の生活が見えてくるんです。「写真なき SNS」 ですよね。景色を歌ったものはInstagramであり、人のやり取りであればLINE。和歌を送り合うというのが万葉集の特徴なので、本歌があって、変化があって、変化があって、変化がある。何度かラリーをするのもLINEっぽいですよね。現代のSNSっぽさを感じて、#(ハッシュタグ)を使って、令和語で訳してみようと思いました。


――佐々木さんは、若者言葉をギャル雑誌から学んでるそうですね。

 はい。ギャル雑誌、家にいっぱいあります。「りぼん」「ちゃお」「Ranzuki」「小悪魔ageha」「egg」……。若い女の子の言葉って、おじさんにはわかんないんですよ。それを文字化しているものが貴重っていうのかな。

 「ワンチャン」って言葉とか、ぼくは最近意図的に使っていますけど、若い人たちはどう使ってるんだろうとか思うんです。ぼくがたとえば「ワンチャン電車間に合うか」って使うけれど、若者は恋の文脈で使うのかなとか。そういう微妙なニュアンスって、おじさんと若い人たちじゃ乖離があると思うんですよね。

 奈良時代では、40 歳になると初老といっておじいさんとして扱われていて、そのひとつ下の世代ですらお父さん世代でした。15 歳とかでみなさん結婚してるので、当時旦那の不倫っていうと、20 歳ぐらいが不倫している。そうやって詠み手が若いのに、現代語訳の万葉集といったら、おじさん語で訳されてるんですよね。「我が妻が」とか。

 

――古文の授業で習ったのは、「我が妻が」のイメージです。

 そうですよね。今の10 代の子が、我が妻とか言わんだろうみたいな。「うちの嫁ハンが」とか、「俺の女が」とか、「ピッピが」とか。だから、年齢合わせみたいなことをしたかったんです。

 

――万葉集4500首から、著書に入れる歌はどう選んでいるんですか。

 読者が飽きないように構成していますね。ピュアな恋愛があったら次は怒ったり泣いたり。1冊に90 首入れているんですけども、ピュアな歌ばっかりだと五七五七七、 31 文字の和歌なので「あなたのことがめっちゃ好き」みたいな訳にしかならない。不倫、失恋、片思い、怒ったり泣いたり逃げたり、天皇がいたり農民がいたり。感情が 1 つにならないように工夫しています。

 それなりに出来たら、逆に「ちゃお」とか「りぼん」とかから若者の恋愛の言葉みたいなのを探して……。たとえば「やることなすこと男らしくないな」ってセリフがマンガにあったとしますよね。そのセリフにピンときて、万葉集にそういう歌がありそうだなと逆引きするんです。現代語を先に作って元歌を探していきます。

 

――逆引きもできるということは、4500首がなんとなく頭に入っているんでしょうか。

……いや、あんまりないな(笑)。でも恋はこの巻に多いという特徴はあって、万葉集の巻四っていうのは恋愛の歌が多い巻なので、そこを探っていけば、なんか見つかるんちゃうかなと考えてみる。「ワンチャン会える?」だったら「あなたに会えるかも」みたいな語をどんどん探していく。「会えるかも」で見つけられなかったら、「来るかも」みたいなニュアンスの言葉を探していく。そんな感じで頭を回転させながらやってますね。

 

――「眉毛がかゆくなるのは誰かが会いに来る兆し」だとか。そんなことあるんだ、と新鮮でした。

 それは今でもあるかもしれないですね。「くしゃみすると誰かが噂してる」とか「しゃっくりしたら魂抜かれる」とか。

 

巻六 993番歌

【原文】月立ちて ただ三日月の 眉根かき 日長く恋ひし 君に逢へるかも

【令和訳】 今夜は三日月やし うちの三日月の形をした眉毛を搔いて ナンパ待ちしてたんよ そしたら イケメンが声かけてきて ワロタ

 

――大伴家持、大伴坂上郎女、大伴坂上二嬢……。同じ詠み手が何度か出てくると、「この人は歌がうまいんだな」と気になり、wikipediaでその人物を検索しました。

 百人一首は貴族の生活しか出てこないんですが、万葉集だったら、漁師の歌で「いい魚取れた」みたいな歌とかあるんですよ。なんやその歌、みたいな。

 

――本当にsns 的ですね。

 そうそう。東北地方に伝わる歌だとか、母(大伴坂上二嬢)が娘のラブレターを代筆するとか、そんな歌もあります。2巻「太子の少年」は食事に関した歌が結構入れています。「あの子はスイカ食べてても可愛い、マロン食べてても可愛い」「ぼくは高級な鯛料理を食べたいのに、ネギ汁出しやがってムカつく」とか色々と出てきます。

 


佐々木良(ささき・りょう)

 1984年生まれ、大阪府出身。京都精華大学 芸術学部卒業。大学時代には油絵を専攻し、卒業後は地中美術館、豊島美術館などに従事。京都現代美術館の学芸員を経て、瀬戸内の文化芸術の研究を中心に活動。著書に「美術館ができるまで」「令和は瀬戸内から始まる」(共に啓文社書房)、編著に「令和万葉集」「令和古事記」。

 

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