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私のイチオシコレクション

アフリカ現代美術 世田谷美術館

表現の自由や多様性を追究

エル・アナツイ「あてどなき宿命の旅路」 1995年 (C)EL ANATSUI 撮影・松本和幸
エル・アナツイ「あてどなき宿命の旅路」 1995年 
©EL ANATSUI 撮影・松本和幸
エル・アナツイ「あてどなき宿命の旅路」 1995年 (C)EL ANATSUI 撮影・松本和幸 ソカリ・ダグラス・キャンプ「私の世界 あなたの世界」1997年 Sculpture made by Artist Sokari Douglas Camp 撮影・松本和幸

 1990年前後、天安門事件やベルリンの壁の崩壊など、世界全体が転換期を迎えました。アートの世界でも、欧米からアジアやアフリカなどに関心が移っていきます。アフリカ諸国では相次いで民主化が進み、表現の自由や多様性への欲求から、メッセージ性の強い作品も生まれてきました。当館が95年に開催した「インサイド・ストーリー」はその機運の中で、日本で初めてアフリカの同時代美術を紹介した展覧会です。主にその時の出品作家の作品12点を所蔵しています。

 ガーナ出身でナイジェリアを拠点に活動するエル・アナツイの「あてどなき宿命の旅路」は、90年代の傑作です。古くなり使われなくなった臼を逆さにして薪を運ぶ人物に見立て、困難な状況をどう乗り越えるべきかという普遍的なテーマを表現しています。身近な廃材を徹底的に使い尽くす。そこから独特の詩情が生まれる。この作品にもそれが表れています。

 一方、ソカリ・ダグラス・キャンプは、ナイジェリア出身でロンドンで活動する女性作家。「私の世界 あなたの世界」はカラバリという出身民族の習俗を鉄で表現しています。カラバリでは、女性が鉄を加工することはタブー。しかし、彼女はあえてその素材を使い、祖国の環境汚染を葬儀の行列に重ねて訴えています。現代美術は難しいと思われがちですが、素材の使い方に興味を持つと作品に近づける気がします。

(聞き手・石井久美子)


 《世田谷美術館》 東京都世田谷区砧公園1の2。午前10時~午後6時。(月)((祝)(休)の場合は翌日)、12月29日~1月3日休み。2作品は「アフリカ現代美術コレクションのすべて」(4月7日まで)で展示中。200円。問い合わせは03・5777・8600。

塚田さん

学芸員 塚田美紀

 つかだ・みき 2000年から同館に勤務。専門はスペイン語圏の文化芸術。主な展覧会に「アルバレス・ブラボ写真展」などがある。

(2018年12月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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