読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

欧州の古地図 ゼンリンミュージアム

半分しか描かれなかった日本

欧州の古地図 ゼンリンミュージアム
リンスホーテン「東アジア図」1595~96年
欧州の古地図 ゼンリンミュージアム 欧州の古地図 ゼンリンミュージアム

 住宅地図で知られる「ゼンリン」が運営する当館は、16~19世紀の欧州の古地図を中心に、約1万4千点を所蔵しています。

 1595~96年の「東アジア図」は、欧州から東アジアへの航海を示した図の1枚。インドのゴアに滞在したオランダ人リンスホーテンが、ポルトガルの海図を元に作りました。

 この地図は左側が北です。中央付近に香辛料を産するモルッカ諸島、左側の中国大陸に貿易拠点マカオ、左上のエビのような形が銀の産地日本。中国の生糸を日本で銀に換え、銀で香辛料を買い付ける。ポルトガルが巨利を独占していた香辛料貿易が、1枚の中に見てとれます。

 描かれた日本は(右に90度回転させると)紀伊半島以西とわかります。石見銀山(島根)付近には「銀鉱山」とあり、航海の目印になったであろう九州の島々やキリシタン大名の城の名もあります。一方、東日本の情報は貿易商人やザビエル以来訪れた宣教師たちも乏しかったと、私は考えています。

 リンスホーテンは航海や現地の事情を紹介した「東方案内記」を著し、本図はその付表です。著書と地図は、オランダや英国の東アジア進出を促すきっかけになったといえます。

 別の作者による1528年の「日本図」は、西洋で初めて日本を単独で描いたもの。マルコ・ポーロが「東方見聞録」で黄金の国とした「ジパング」を想像だけで描いています。「東アジア図」までの約70年間に劇的に増えた情報量からは、キリスト教布教や大航海時代を背景にした年月の色濃さが見えてきます。

(聞き手・山田愛)


 《ゼンリンミュージアム》 新規開館を延期、開館日未定。北九州市小倉北区室町1の1の1の14階(問い合わせは093・592・9082、開館まで平日のみ)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。千円。月(祝休の場合は翌平日)休み。

佐藤渉

 館長 佐藤渉

 さとう・わたる 駒沢大学文学部地理学科卒業、1992年にゼンリン入社。営業や住宅地図の製作に携わった。趣味で明治期以降の地図を収集。

(2020年4月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 立山博物館 江戸時代に立山登拝の拠点村落の一つだった富山県立山町芦峅寺(あしくらじ)集落にある当館は、展示館を中心に施設が点在する広域分散型博物館です。立山の人と自然にかかわる資料約2万点を収蔵し、常設展などで展示しています。

  • 松山市立子規記念博物館 俳句、短歌の革新に取り組み日本の近代文学に多大な影響を及ぼした正岡子規(1867~1902)。生まれ故郷の松山市にある当館は、子規関係の資料をはじめ約7万点の資料を収蔵しています。

  • 世田谷文学館 東京都世田谷区にある当館は、東宝の撮影所が区内にある縁もあって映画に関連する資料も多く所蔵しています。

  • 十和田市現代美術館 街に開かれた美術館がコンセプトの当館は、広い開口部のある展示室が特徴です。

新着コラム