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西洋の彫刻 東京富士美術館

英雄は大王に何を語った?

西洋の彫刻 東京富士美術館
「ヘラクレス・エピトラペジオス(卓上のヘラクレス)」 1~2世紀 高さ53×幅21.3×奥行き26.8センチ
西洋の彫刻 東京富士美術館 西洋の彫刻 東京富士美術館

 西洋絵画や写真を軸に約3万点を所蔵する当館で最も古い西洋彫刻が「ヘラクレス・エピトラペジオス」です。

 オリジナルは紀元前4世紀の彫刻家リュシッポスが、マケドニア王国のアレクサンドロス大王のために作ったブロンズ像。それを1~2世紀のローマ帝国時代、大理石で精巧に模刻したものです。

 オリジナルが失われた現在、大変貴重な作品です。

 リュシッポスはそれまでの動きの少ない古典期の造形から躍動感あるヘレニズム期へ移行する過渡期の彫刻家でした。

 この像では力の入った右脚とゆったり伸ばした左脚、おそらくワインの杯を差し出している右手とこん棒に手をかけた左手が緊張と弛緩の対比をうまく表現しています。

 ギリシャ神話の英雄ヘラクレスの子孫を自称していた大王は、ブロンズ像をとても気に入り、祝宴のテーブルにも飾ったことから「卓上のヘラクレス」とも呼ばれます。

 卓上に置いて前に立つと顔を上げたヘラクレスと視線が合い、少し口を開けたその表情は何かを語りかけてくるようです。

 「接吻」は「近代彫刻の父」と呼ばれるオーギュスト・ロダン(1840~1917)が、ダンテの「神曲」地獄編に登場するパオロとフランチェスカの悲恋に題材をとった作品です。

 古代彫刻を模範に「理想の人体」を表現することが良しとされていた時代、ロダンは人間の内面も浮かび上がらせようとしました。

 「接吻」では愛や苦しみ、悲哀など、引き裂かれた2人の思いが人間的に表現されています。

 女性の曲線、男性の力強さは完璧なプロポーションで、色んな角度から見てほしいです。

(聞き手・小森風美)


 《東京富士美術館》 東京都八王子市谷野町492の1(問い合わせは042・691・4511)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。1300円。2点は常設展示。原則(月)休み。

こがねまる・としお

学芸員 小金丸敏夫

 こがねまる・としお 1997年から現職。専門は西洋絵画。2014年の浮世絵の企画展担当時は勉強に励み、来夏以降に再び浮世絵の展示を構想中。

(2021年3月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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