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ポーラ美術館

日本画 革新へ 探究した厚塗り

「水」 杉山寧 1965年 147.3×227.3㌢
「水」 杉山寧 1965年 147.3×227.3㌢
「水」 杉山寧 1965年 147.3×227.3㌢ 「山に因む十題のうち 霊峰四趣 秋」 横山大観 1940年 74.6×110.4㌢

 ポーラ創業家2代目・鈴木常司のコレクションを中心とする当館は印象派絵画が知られますが、鈴木は戦後の作品を中心に日本画の収集にも熱心でした。12月3日まで開催中の13年ぶりの日本画展「シン・ジャパニーズ・ペインティング」では、近代以降の「日本画の革新」の歴史に着目し、約130点を紹介しています。

 「水」を描いた杉山寧(1909~93)は鈴木と深い親交があり、43点収蔵するその作品は当館日本画コレクションの中核です。エジプト・ナイル川に取材した本作は水をくむ女性を具象的に、背景のナイル川は抽象的に、洗練された構図で描かれています。油彩画を思わせる独特な風合いと岩絵の具の美しさが目を引きます。

 東京美術学校(現東京芸術大学)在学中に帝展に入選、気鋭の画家として注目された杉山は、伝統的な日本画の枠を超え、素材や技法の探求を重ねました。特に1950年代後半以降に見られる「厚塗りのマチエール(絵肌)」は晩年までこだわり続けた特徴です。

 油彩のような凹凸を日本画材で実現するため、岩絵の具に砂や接着剤を混ぜたりしました。支持体も和紙や絹本から麻布(キャンバス)を用いるようになります。「水」もキャンバスに描かれていて、背景は主調となる青に暖色系の色を重ねて水面のきらめきを表現しています。

横山大観(1868~1958)の「山に因む十題のうち 霊峰四趣 秋」は、近代日本画の方向性を示した「朦朧体」の系譜に連なる作品です。

 岡倉天心の「空気を描け」という言葉に端を発して大観や菱田春草が編み出した朦朧体は、伝統的な線描を排し、西洋画にならったグラデーションを用いた技法。当時は「洋画かぶれ」と非難され、朦朧体の名も否定的な評価を反映するものですが、後世に大きな影響を与えました。

 

(聞き手・佐藤直子)


 《ポーラ美術館》神奈川県箱根町仙石原小塚山1285(☎0460・84・2111)。午前9時~午後5時(入場は30分前まで)。1800円。

 ポーラ美術館
 https://www.polamuseum.or.jp

うちろ・ひろゆき

学芸員 内呂 博之

 うちろ・ひろゆき 2001~13年ポーラ美術館勤務の後、金沢21世紀美術館勤務を経て18年から現職。専門は美術作品の保存修復、近現代美術史など。

(2023年10月3日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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