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私のイチオシコレクション

諸橋近代美術館

「フード・オン・ザ・ストリート」 PJクルック 1995年 91×70.5センチ

 シュールレアリスムを代表するサルバドール・ダリ(1904~89)を中心に、近・現代美術を多く集めています。中でも英国の現代美術家、PJクルックの作品は35点所蔵しています。

 ご紹介する「フード・オン・ザ・ストリート」は、キャンバスを越えて額にまで描き、絵画を平面から解放するような手法が目を引きます。煙突からもうもうと吹き出す煙や群衆を背景に、フィッシュ・アンド・チップスを頬張る男性の姿が大きく描かれます。右腕で抱えた古新聞とおぼしき包みには油がしみ、広告や人物写真までも克明に描き込まれています。

 発行直後は情報源として重用される新聞が、一読されて役目を終えた後も人々の生活を支える――。その姿が、彼女の創作意欲を刺激したのだと思います。

 クルック作品との出合いは95年。当館創設者で紳士服小売業を営んでいた諸橋廷蔵が渡仏した時、偶然立ち寄った個展で魅了され、展示作品の一括購入を即決しました。これが追い風となり、ロックバンド「キング・クリムゾン」のCDジャケットを手掛けるなど、彼女の創作活動を大きく前進させました。

 絵画だけでなく、写真家フィリップ・ハルスマン(1906~79)の作品もコレクションの柱の一つ。「私は原子爆発に思いふける」は、当館を象徴するダリを被写体にした一枚です。キノコ雲が勢いよく口から立ち上り、不自然な方向に浮遊する髪の毛や口ひげが印象的です。

 タネ明かしをすると、水を張った水槽に顔を沈め、口に含んだ牛乳を吹き出す瞬間を写したものです。現像した写真を上下逆さにすると、口から噴煙を吹き上げているようですね。

 スマホで撮影や加工ができる今となってはたわいもない仕掛けですが、2人は37年間にわたって次々と革新的で遊び心あふれる作品を世に送り出しました。

(聞き手・鈴木麻純)

 


 《諸橋近代美術館》 福島県北塩原村桧原剣ケ峯1093の23(☎0241・37・1088)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。1300円。2点は「コレクション・ストーリー ―諸橋近代美術館のあゆみ―」(~11月10日)で展示。本展期間中は無休。

 

学芸員 石沢夏帆さん

 いしざわ・かほ 東北芸術工科大学美術史・文化財保存修復学科卒。専門は保存科学で、2018年から現職。作品保全や展覧会企画を担当

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