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私のイチオシコレクション

山梨県立美術館

故郷の記憶と自然、ありのままに

須田悦弘「麦」「蕎麦」(左下) ジャン=フランソワ・ミレー「種をまく人」(右上)
須田悦弘「麦」「蕎麦」(左下) ジャン=フランソワ・ミレー「種をまく人」(右上)
須田悦弘「麦」「蕎麦」(左下) ジャン=フランソワ・ミレー「種をまく人」(右上) 須田悦弘「麦」(左)、「蕎麦」(右) 2020年 木彫 栗田宏一「SOIL LIBRARY / YAMANASHI」2020年 土、瓶100本

 「種をまく人」などの作品で「ミレーの美術館」として知られていますが、山梨県ゆかりの作家の作品も多く収蔵しています。須田悦弘と栗田宏一は、どちらも笛吹市出身の現代アーティストです。自身と故郷のつながりをテーマにつくられた2人の作品をご紹介します。

 須田の代表的な作品は、木彫の「雑草」です。実家が観光農園を営んでいた須田にとって、雑草は家の手伝いの草取りをさせられた記憶と結びついています。制御できない自然相手の仕事をしてきた経験が、制作の背景にあることを強く感じさせます。

 「麦」と「蕎麦」は、ミレーの「種をまく人」と組み合わせて一つの作品にすることを念頭に作られました。種をまく手の先に、木彫の小さな麦と蕎麦の芽を置きます。以前は「種をまく人」の解説に、種は蕎麦だと記載していた時期がありました。しかし今は、麦に修正しています。その話に興味を持った須田は、「麦」と「蕎麦」をセットで一つの作品としたのです。須田の作品の多くには、パネルや説明がありません。展示室にひっそりと生えている植物たちを、探してみてください。

 栗田宏一は、様々な土地で土を採集する作家です。カラフルな作品なので、クレヨンと間違われることもありますが、無着色の自然の土そのものです。特別な加工をせず、ゴミを取って丁寧に乾燥させると、土地ごとに全く違う色が出てくるといいます。

 「SOIL LIBRARY / YAMANASHI」は、県内100カ所から土を集めました。自分の出身地や親の実家など、山梨にゆかりのある人が見れば必ずなじみのある町の土があるという仕掛けです。

 自分の足元の土がこんなにカラフルだったなんて、誰も知らなかったのではないでしょうか。自然に同じ色の物は一つとしてありません。それは私たち人間も同じだということに気付かされる作品です。

 

(聞き手・笹本なつる)


 《山梨県立美術館》 甲府市貢川1の4の27(☎055・228・3322)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。入館無料。コレクション展一般520円。原則(月)と、祝日の翌日休み。2点が展示される冬季コレクション展は3月2日(日)まで。

 

学芸員 太田智子さん

学芸員 太田智子さん

 おおた・ともこ 岩手県出身。東京大学大学院修了。専門は近現代美術。2006年から現職。

山梨県立美術館
https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/

(2025年1月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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