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世界に広まるキンパ きっかけは「ウ・ヨンウ」

Netflixシリーズ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」独占配信中

 「キンパ」といえば韓国の海苔(のり)巻きだ。日本のおにぎりのような日常食でキンパ屋さんはどこにでもあり、コンビニでも売っている。そのキンパが世界に広まっている。きっかけの一つはドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」(以下「ウ・ヨンウ」)だ。

 特にアメリカでキンパ人気に火が付き、「冷凍キンパ品切れ続出」というニュースまで。ドラマの影響もあるが「低カロリー」や「ヴィーガン」も人気の理由に挙げられる。レンジでチンするだけでお手軽、しかも健康的というイメージのようだ。キンパを輸出する食品会社の株価上昇も注目を集めている。

 輸出成功の最大のポイントは「冷凍」。冷凍ではないキンパは賞味期限が短く輸出に向かなかったが、韓国農水産食品流通公社が冷凍キンパを輸出有望品目として集中的に育成し、海外の販路開拓やマーケティングの支援に乗り出した。これが功を奏して冷凍キンパの輸出が急増し、今年1~4月、韓国の米(こめ)加工食品の輸出額は前年比42.1%伸びた。

 

 

 海苔の輸出も増えている。昨年、韓国の海苔の輸出額は1兆ウォン(約1100億円)を突破した。海苔の値段が高くなっているという背景もある。かつて「ブラックペーパー」と呼ばれて欧米で敬遠された海苔だが、韓国の映画やドラマによく出てくるキンパのおかげでイメージが変わってきたようだ。輸出が史上最高額になった海苔は「黒い半導体」とも呼ばれている。

 キンパ普及に最も貢献したのは、2022年に放送された「ウ・ヨンウ」だ。韓国では初回視聴率1%未満だったのが、回を重ねるごとにぐんぐん伸びて最終回は17.5%を記録。韓国映画・ドラマ界の最大級のアワード、百想芸術大賞2023で主演のパク・ウンビンが大賞を受賞するなど評価も非常に高かった。海外ではネットフリックスで配信され、英語圏、非英語圏のドラマを合わせて視聴時間1位を記録するほど世界中の視聴者を魅了した。

 主人公の弁護士ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)の父親がキンパ屋を営み、ウ・ヨンウは毎朝キンパを食べて出勤する。店名も「ウ・ヨンウキンパ」。ウ・ヨンウは自閉スペクトラム症で、韓国の原題は実は「変な弁護士ウ・ヨンウ」だった。ちょっと変わっているけれど、弁護士としては天才的な発想と暗記力で裁判を思わぬ方向へ導く。キンパが好きなのは、中身が見えて、予想外の食感や味に驚くことはないから。出されたキンパをおはしで毎度きれいに並べ直す姿も愛らしい。ドラマでたびたびキンパが登場するので、見たら自然とキンパが食べたくなる。

 

 

 「ウ・ヨンウキンパ」のロケ地はドラマ放映後、「聖地」となって国内外の多くのドラマファンが訪れた。ソウル郊外の水原(スウォン)市にあり、当時は「カザグルマ」という名の日本食店だったが、先月筆者が訪れた時には本当にキンパ屋になっていた。店名は「ソホキンパ」だが、外観はほぼドラマに出てきたまま。「ウ・ヨンウ」はシーズン2の制作が予告されており、またここがロケ地となるのかもしれない。世界遺産の城郭、水原華城の近くなので、観光がてら寄ってみるのはいかが。

 

 成川彩(なりかわ・あや)

 韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。

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