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建モノがたり

TOBICHI-2(東京都港区)

歩き出しそうな斜めのライン

日が落ちると斜めのラインに沿ってライトがともる。日中は木材の色目を、夜は立体感や質感を楽しめる
日が落ちると斜めのラインに沿ってライトがともる。日中は木材の色目を、夜は立体感や質感を楽しめる
日が落ちると斜めのラインに沿ってライトがともる。日中は木材の色目を、夜は立体感や質感を楽しめる 一つ一つが個性的な古材の外壁。組み合わせ方に苦慮したという=いずれも郭允撮影

ずばっと斜めに分断されたファサード(正面)。不規則な縦じま模様は何?所々に開いた穴はデザインなの?

 東京・青山霊園近く、緑豊かな一角にコンパクトながら個性を放つ建物が現れる。ウェブメディア・ほぼ日刊イトイ新聞を運営する「ほぼ日」のイベントスペース「TOBICHI-2」だ。

 もとは木造2階建てアパート。京都の三角屋が、設計から施工までの改装を担当した。建物を側面から見た姿が、前衛書家・井上有一が書いた「貧」の字と重なり着想を得た、と三角屋の三浦史朗さんは話す。井上は「貧」の意味を積極的にとらえ、躍動感のある作品も残した。

 これをイメージの土台に、正面の斜めのラインで、歩き出しそうな「元気な」建物を目指した。パッチワークのような部分は、解体された建物の古材。所々開いた四角い穴は、材木を接合する「ほぞ穴」の名残だ。一つ一つが個性的な古材を使い、「ワクワクを発信する『ほぼ日』らしい外壁」を作り上げた。

 「ほぼ日」社長の糸井重里さんは改装にあたって「かまどを置く」という「お題」を出した。「何があってもごはんがあれば安心できるよね」。かまどを据えた入り口は、糸井さんの言葉通り、どこかホッとできる。「紙を使い倒す」も糸井さんの要望。粗い繊維が残る因州和紙を加工して、外壁にも使った。

 竣工から今年で5年。三浦さんは「時間を経て更に良くなっている。これからの経過が楽しみ」と思いをはせる。

(高木彩情)

 DATA

  設計:三角屋
  階数:地上2階
  用途:店舗
  完成:2015年2月

 《最寄り駅》 表参道


建モノがたり

  南西へ30秒歩けば、「ほぼ日」の常設店TOBICHI(問い合わせは03・6805・0258)。こちらも三角屋が手がけた外壁が特徴的。「ほぼ日手帳」や「ひきだしポーチ」などオリジナルグッズが並ぶ。当面の間は臨時休業。

(2020年4月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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