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建モノがたり

葛西臨海公園 クリスタルビュー(東京都江戸川区)

空中を歩く ガラスの展望台

海や緑の眺望を妨げないよう、できるだけ低層で透明度の高い建物をめざし、ガラス張りで横長にした
海や緑の眺望を妨げないよう、できるだけ低層で透明度の高い建物をめざし、ガラス張りで横長にした
海や緑の眺望を妨げないよう、できるだけ低層で透明度の高い建物をめざし、ガラス張りで横長にした 2階からは八角形ドームの水族園と鳥類園の緑が見える

湾岸エリアに緑地帯が広がる公園。海沿いに透明で巨大な横長の箱が見える。なぜここに? 中はどうなっているの?

 葛西臨海公園駅から東京湾へまっすぐ伸びた道の先。ゲートのような直方体の開口部から、きらきらと光る海面が見える。

 幅75メートル、奥行き7メートル。「ガラスの薄い箱」の内部に入り階段を上ると、2階の展望ブリッジからは360度が見渡せる。東は房総半島、西には富士山の頂がかすむ。今度はなだらかなスロープを下り、海側の広場へ出る。

 設計した谷口吉生さん(83)はニューヨーク近代美術館新館の増改築など美術館を多く手掛けてきた。建築の中での体験を旅に例え、利用者の動線や視線を映画を撮るように細かく検討する。階段、通路、スロープと連続する空間は、園内散策の延長で「空中を歩ける」展望台を意図した。

 葛西臨海公園は、1970年代から始まった埋め立てにより造成された。この建物は長年の事業の完成を記念したモニュメントでもある。谷口さんがイメージしたのはガラスの彫刻。柱を1本も使わず、鉄枠をかごのように組み上げ、建物を支える構造体とした。同じ園内の、マグロ群泳で知られる葛西臨海水族園も谷口さんの設計だ。公園を大きな庭に、水族園の八角形ドームとガラスの直方体を庭石に見立てた。

 埋め立て後まもなくは殺風景な一帯だった、と谷口さんは振り返る。目的がなくても何度でも訪れ、誰もが自由に過ごせる場所をと願って設計した。春の訪れを感じるこの日、日なたでまどろむ家族連れや散歩を楽しむカップルが思い思いの時間を過ごしていた。

(山田愛、写真も)

 DATA

  設計:谷口吉生
  階数:地上2階、地下1階
  用途:展望台、休憩所
  完成:1995年5月

 《最寄り駅》 葛西臨海公園


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 目の前の二つの渚は葛西海浜公園としてラムサール条約に登録され、海洋生物や水鳥が多く生息する。葛西臨海公園内の鳥類園は池や林、草地がある野外環境の中でカモやカイツブリ、サギなどの野鳥を観察することができる。問い合わせは葛西臨海公園サービスセンター(03・5696・1331)。

(2021年3月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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