福島・南会津町の渡部絵美さん 手のひらに乗るような小さな花束は、木のかけらから作られていました。総面積の9割を森林が占める福島県南会津町で、かんなくずを木の花に生まれ変わらせる動きが生まれています。
富士山の麓、山中湖畔の国道を車で進むと、雄大な景色の中に浮かんでいるような建物が見えてくる。
四方がガラス張りの壁面には、青空や山並みの緑が透けてみえる。周囲の自然に溶け込むように佇むのは、サウナ施設「CYCL」だ。
2階建て、延べ床面積約160平方メートル。1階のサウナ室は人工照明がほとんど足元にしかなく、天井の小さな吹き抜けから自然光がほんのりと差し込む。瞑想するように自分の内面に集中できる空間だ。
階段を上がると、一転して展望ラウンジが広がる。大きな窓の向こうには富士山や湖面。大胆に景色を切り取り、自然に放り出されたような開放的な空間が現れる。
「宇宙船のようなユニークな建築を」。設計した建築家の百枝優さん(41)は、そんな依頼をオーナーから受けて試行錯誤を重ねた。
現地は国立公園内。環境省や自然公園法の厳しい制約があった。景観を壊さないように高さや屋根の形、窓の役割を考え続けた。
建築と歴史や文化の関連性を大切にする百枝さんは、地元の暮らしぶりも調べた。昔の人は、富士山頂付近にかかる笠雲を見て天気を予測していた。イメージとして浮かんだのが、富士山に笠雲がかかるように屋根がふんわりと重なる建築だった。
フロアの中心に置かれた山のような構造体が、大きな屋根を天秤のように支える。ガラス張りで柱が見えない「浮遊感」のある建物が誕生した。
「その地の気配を建築で表現したい」。そんな百枝さんの思いは、CYCLを営むメンバーの考えと重なった。
「山中湖畔に調和するシンボリックな施設になった」。メンバーの一人、ブランドコンセプトをつくった川浪寛朗さん(40)は話す。CYCLは「cycle」「circulation」「circle」をかけた造語で、自然の循環や人のつながり、経済が回ることを意味している。
CYCLには、サウナ好きのグループやキャンプを楽しむ人々が県内外から訪れている。「サウナで整って五感が繊細になった後、絶景をみながら様々なサイクルに思いをはせてほしい」。そんな願いが込められている。
(三浦旋律、写真も)
DATA 設計:百枝優建築設計事務所 《最寄り駅》:富士山駅から車 |
徒歩約10分のPAPER MOON(ペーパームーン、☎0555・62・2041)は、森と庭に囲まれた山中湖畔のケーキカフェ。人気はアップルパイ。リンゴがパイ生地のなかにたっぷりと詰まり、アイスクリームが添えられている。営業時間は前11時~後6時。原則として年中無休。