福島・南会津町の渡部絵美さん 手のひらに乗るような小さな花束は、木のかけらから作られていました。総面積の9割を森林が占める福島県南会津町で、かんなくずを木の花に生まれ変わらせる動きが生まれています。
総面積の9割を森林が占める福島県南会津町。地元産の木材から「ローテク」で建てた施設とは?
会津鉄道の会津田島駅から徒歩10分ほど。濃緑の山並みを背景に、長さ約45メートルのフラットな大屋根が目に入ってきた。縦長の10本の梁が外にせり出し、木材の存在感が強調されている。
中に入ると、木の香りがほのかに漂う。天井まで高さ約4.7メートルの大きな空間は、木の壁や柱に包まれていた。照明をつけた木枠はドーナツのような曲線を描き、穏やかな雰囲気をつくり出している。
「みなみあいづ森と木の情報・活動ステーション きとね」は、南会津町が林産業の拠点施設としてつくった。「作り手もモノも南会津産にこだわりました」。町や福島県建築設計協同組合とともに設計を担当した「はりゅうウッドスタジオ」の滑田崇志さん(45)は振り返る。
施設内の主な壁は、150ミリ角の木材2~11本を縦に並べて1枚の大きなパネルにする「縦ログ」構法で耐震性を持たせた。壁の上に架け渡した重ね梁は、スギ材を8段重ねて1.9メートルまで厚みを持たせ、冬の豪雪に耐えられる構造にした。
「シンプルな技術(ローテク)で施設を造ることができれば、地元の作り手が請け負える。人口が減少する中山間地でも続けられる建築のあり方を模索しました」。町の人々や職人が南会津を誇りに思えるような建物をめざして設計したという。
木材の「節」が印象的な模様を描く壁をはじめ、使われた木材はすべて町内で伐採され、加工されたもの。広葉樹で製作したテーブルには、夕方になると自習する中高生の姿がみられるようになった。木のおもちゃをそろえたスペースを訪れる家族連れも少なくない。
イベントスペースや会議室、木に関連する商品を販売するショップもある。「木の町として、いろいろな人々がつながれる場に育ってきました」。南会津町農林課の渡部絵美さん(34)は話す。
きとね」の名前の由来の一つに、「ki」+「tone」で「木のトーン」という意味づけもあるという。色調豊かな木と過ごす時間を大切にしてほしいとの願いが、地域のつながりというかたちで実現されている。
(中山幸穂、写真も)
DATA 設計:はりゅうウッドスタジオ、福島県建築設計協同組合 《最寄り駅》:会津田島 |
徒歩約10分の南会津マウンテンブルーイングはクラフトビールの醸造所と直営店。2階から自由に見学できるほか、常時10種類以上のオリジナルビールを販売。直売所の営業時間は午前9時半~午後6時。不定休(休みはインスタグラムで)。問い合わせは☎070・8472・6965。