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建モノがたり

オープンスカイハウス(東京都杉並区)

家の中?外?青天井リビング

リビングの左側はピアノやテレビを置く場所、右側はダイニング。それぞれとリビングの間はサッシで仕切られ、雨の日は食卓からガラス戸越しにテレビを見る=高橋庸文さん撮影
リビングの左側はピアノやテレビを置く場所、右側はダイニング。それぞれとリビングの間はサッシで仕切られ、雨の日は食卓からガラス戸越しにテレビを見る=高橋庸文さん撮影
リビングの左側はピアノやテレビを置く場所、右側はダイニング。それぞれとリビングの間はサッシで仕切られ、雨の日は食卓からガラス戸越しにテレビを見る=高橋庸文さん撮影 庸文さんが描いた家の断面。「法律の境界線みたいなところに面白いものが生まれることがあるんじゃないか」

家族5人が暮らす白い家に入ると、リビングの屋根がない。いったいなぜ? 雨が降ったらどうする?

 ゼネコン勤務のかたわら「座二郎」のペンネームで漫画家としても活動する高橋庸文さん(46)は、憧れの中央線沿線に土地付き中古住宅を買った。しかし住宅が容積率オーバーの既存不適格でローンが組めない。やむなく取り壊して新築することにしたが、問題があった。

 敷地約76平方メートル×容積率80%=許容延べ床面積は60平方メートルほど。夫婦と子ども3人には、やはり狭い。考えた末の解決策が「家の一部を外にする」。屋根がなければその部分は床面積に算入されないからだ。

 そうはいっても食事中や就寝中に雨に降られると困る。とすると……リビングの屋根がぽっかり開いた構想スケッチを、元インテリアデザイナーの妻みのりさん(44)に見せた。「イタリアのパティオみたいなのが憧れ」だったみのりさんはすぐに乗り気に。「いいじゃん! なんとかなるでしょ、と思いました」

 設計を依頼されたのは、大学以来の友人の鈴木理考さん(46)。雨や風の影響を受けにくい範囲で、リビングをどれだけ広くできるか何度も計算したという。外壁材が多い構造のためかさみがちなコスト管理にも苦心した。みのりさんも内装を担当した。

 リビングの床はコンクリートで仕上げ、勾配をつけて水はけに配慮。天候によっては頭上にタープ(雨よけの布)を張る。最初のころは浴槽1杯分ほどの雨水がたまるなどしたが、改良を重ねた。ヨット用の金具を応用し、張ったりたたんだりもスムーズだ。タープを張ってストーブをつければ冬も過ごせる。

 屋根のない部屋と聞いて「ゲーム機壊れちゃうじゃん!」と反対した子どもたちもすっかりなじんでいる。「遊びにきた友だちのリアクションがすごい。うわーって追いかけっこが始まります」と庸文さん。鈴木さんは「給料と組めるローンと不動産相場で、住めるところって決まってしまいますよね。常識の枠を外して、現状に一石を投じるアイデアです」と話した。

(吉﨑未希)

 DATA

  設計:鈴木理考建築都市事務所+座二郎+高橋みのり
  階数:地上2階
  用途:個人住宅
  完成:2019年2月

 《最寄り駅》 上石神井、西荻窪


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 近隣の善福寺公園は善福寺池を中心とした市民の憩いの場。わき水により江戸の水がめと呼ばれた善福寺池は、年間50種類もの野鳥が飛来する「野鳥の聖地」としても知られる。問い合わせは善福寺公園サービスセンター(03・3396・0825)。

(2021年3月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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