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建モノがたり

旧西里小学校(熊本県小国町)

特産杉の宇宙船 新たなステップ

旧西里小学校(熊本県小国町)
ドームの外装の銅板は年月を経て緑青に覆われ、山の景色と調和する。
教室棟の屋根は特注のフランス瓦ぶき
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 町の中心部から車で20分の山間地。プラネタリウムのようなドームを備えた型破りな旧小学校の現在は。

 九州のほぼ中央に位置する熊本県小国町は7割以上が森林に覆われる。1986年、当時町長だった宮崎暢俊さん(82)が特産の「小国杉」による地域活性化「悠木の里づくり」を構想。当時国内最大級の木造建築「小国ドーム」など15を超える個性的な建物が造られた。

 多い時で全校児童30人足らずだった旧西里小学校もその一つ。中央の多目的ホールは直径14㍍、三角形60面が構成する球体。その周りをそれぞれ独立した三つの教室、家庭科室、音楽室、理科・図工室などが取り囲む。

 ホールと教室は廊下でつながり、ぐるっと一周できる。設計した建築家(当時熊本大学工学部教授)の故木島安史さんは「山村の子どもたちに、自分が宇宙の中心だと感じてほしい」と述べたというが、ドームを中心に腕を伸ばしたような配置はまさに宇宙船のようだ。

 小学校は2009年、統廃合によって閉校になった。活用法について模索が続いていたが22年、ESD(持続可能な開発のための教育)や交流・創造のための拠点を目ざす「NISHIZATO TERAS」プロジェクトが町を中心に動き出した。

 教室棟をサテライトオフィスに活用、多目的ホールをESDの場としてイベントなどを企画する計画だ。中でも元家庭科室を、本格的なキッチンが備わった空間へリノベーションする作業は、住民も巻き込んで進行中。町内で集めた古材を活用したカウンター設置、寄せ木細工のテーブルやトレーの製作には町内外からボランティアが参加した。

 町政策課SDGs推進係長の池部誠一朗さん(35)は「大きな改築などは行われておらず、デザインも含め30年以上大切に使われてきた。次の世代へつなげられる形で、活用していくことが必要」と話す。

(片野美羽、写真も)

 DATA

  設計:木島安史+YAS都市研究所/計画・環境建築
  階数:地下1階、地上2階
  用途:小学校
  完成:1991年

 《最寄り駅》:肥後大津駅から車


建モノがたり

 車で約20分の鍋ケ滝は落差約10㍍、幅約20㍍、カーテンのように流れ落ちる水が優美で神秘的だ。周辺は公園化され、道路渋滞緩和のため入園にはウェブでの事前予約が必要。300円。午前9時~午後5時(入園は30分前まで)。12月28日~1月3日休み。☎小国コールセンター(0967・46・4440)。

◆ASO小国観光協会
https://ogunitown.info/nabegataki/

(2023年10月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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