朝日
「絵を見て、庭にあった枝分かれのハナユズの木だと思いました」と、学芸員の小南桃生さんは二股の木の写真を取り出した。
淡い色調の画面を眺めていると、手前に花が、その奥に3羽の鳥が見えてくる。縁どりのようなものは窓枠だろうか。日本画家、岩倉壽(1936~2018)の晩年の作品だ。
教壇にも立った岩倉は、描くものをよく観察し、そこに湧き出る心象を表現するよう、繰り返し指導したという。学芸課長の鬼頭美奈子さんは、「実際の風景か心象風景か分かりませんが、日常で何度も目にする鳥や花などと時間をかけて向き合い、生まれた構図だと思います」と話す。
岩倉の生誕90年を記念する本展。晩年の作品には、よく鳥が登場する。多く残る自画像の素描や、「作者も対象物も同じ思いで同じ世界にいることが大事」とした言葉にも注目する鬼頭さん。「自画像の制作は、自己と向き合い観察する作業です。描く対象と向き合う時間を重視した岩倉にとって、鳥を描くことはまるで、自画像を描くようなことだったのかもしれません」