丘陵に広がる多摩美術大学八王子キャンパス。連続するアーチや曲面ガラスに包まれた建物は何?
正門を抜けると、木々の緑のなかにコンクリート打ち放しの建築が目にとまる。アーチがリズミカルにデザインされ、大きな窓が演出する透明感のためか、ふわっと浮かんでいるような雰囲気が漂う。
建物内は、さらにアーチが密に張り巡らされている。床近くでは細く絞り込まれた柱が天井に近づくほど広がり、木立のようだ。アーチの下には、呼応するようにカーブを描く書棚が並んでいた。
「勾配があった方が面白いんですよ。軽やかな感じになりましたね」。客員教授として名を連ねていた縁で、多摩美術大学図書館を設計した建築家の伊東豊雄さんは振り返る。
建設予定地は約20分の1の勾配がある傾斜地だった。当初は地下に埋めるデザインを描いたが、地形などから実現は難しく、スロープをいかしたドームの連続体の形状をイメージ。そのうちに柱や梁を兼ねたアーチの連続体の設計に発展していった。
そのアイデアを支えたのが、構造設計者の提案だった。鉄のプレートを芯に入れ、その両側を厚さ10センチのコンクリートで挟み込む構造で強度を確保。30万冊を収容できる図書館という大きな建物なのに、厚みを極限まで抑えた連続アーチが誕生した。
「設計は内から考えて、その構造を外につなげていきます」。室内のアーチは外壁にも引き継がれ、大きな曲面ガラスが館内の曲線と同じような独特の弧を刻み込んでいる。
図書館を新設する際、大学からはコミュニケーションや創造の場としての設計を求められた。窓に近い閲覧席は明るく開放的で、多くの学生が利用している。通り抜けができる1階フロアは正面から奥に向かって緩やかなのぼり坂になっている。丘陵地との連続性や一体感を大切にしたという。
「かつては課題を徹夜で作り終えた美大生がソファに寝転んでいたこともありました」。図書館情報センター事務室の生野諭さんは話す。設立から18年、図書館の姿は変わっていない。芸術を志す生徒たちにインスピレーションを与え続けている。
(鈴木麻純、写真も)
DATA 設計:伊東豊雄建築設計事務所 《最寄り駅》:橋本 |
徒歩約20分のパぺルブルグは、中世南ドイツの館をイメージしてつくられたカフェ。店内には多摩美術大学の先生が手掛けたフレスコ画が。サイホンで入れるコーヒー(800円~)や彩り豊かなスイーツのほか、ランチ(1200円~)の提供も。午前10時~午後7時(金土は10時まで)。不定休。未就学児は入店不可。問い合わせは☎042・677・5511。