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アートリップ

町並み保存地区ののれん 
加納容子作(岡山県真庭市)

軒先を彩る様々な意匠

絞り染めで作られた、民家ののれん。今は色を長持ちさせるため、化学染料を使うことが多い=楠本涼撮影
絞り染めで作られた、民家ののれん。今は色を長持ちさせるため、化学染料を使うことが多い=楠本涼撮影
絞り染めで作られた、民家ののれん。今は色を長持ちさせるため、化学染料を使うことが多い=楠本涼撮影 理容室はクシをイメージしたモダンなデザインだ=楠本涼撮影

 時計の文字盤や農具、トマト……。様々な意匠ののれんが、店や民家など約100軒の軒先でふわりと揺れる。ここは岡山県北部の「勝山町並み保存地区」。白壁や格子窓といった伝統的な建造物が残る城下町だ。

 「のれんの町」になったきっかけは1995年。当時酒屋を営んでいた加納容子さん(69)が店先に掛けた、趣味で染めたのれんだった。近くに住む行藤公典(ゆきとうひろのり)さん(62)はそれを見て足を止めた。「うちにも掛けたいな」。加納さんに制作を依頼。翌年には「楽しく住める町」を目指し、数人で「かつやま町並み保存事業を応援する会」を発足させた。勝山町(現真庭市)に掛け合い、のれん制作のための助成を取り付けると、町内の16軒ものれんを掛けることに。依頼が増えた加納さんは97年、酒屋をたたみ、「ひのき草木染織(くさきせんしょく)工房」を構えた。

 「あくまで自由参加。デザインは依頼者と相談しながら決めています」と加納さん。履物店だった家は下駄(げた)の鼻緒、教会はユリと十字架がモチーフだ。「のれんは、ちょっとのぞきたくなる感じもあるし、恥じらう感じもあって日本的でしょ」

 毎朝7時半ごろのれんを掛ける妹尾(せのお)玉子さん(88)は「掛けると一日が始まったという感じがするな」。春まで郵便の取り次ぎをしていた店先にはポストなどをあしらったのれんがはためいていた。

(牧野祥)

 勝山町並み保存地区

 真庭市の旧勝山町中心部にあり、旧出雲街道の一部を含む約700メートルの区間。江戸時代は宿場町としても栄え、脇を流れる旭川には多くの高瀬舟が往来したという。2009年に都市景観大賞「美しいまちなみ大賞」(国土交通大臣賞)を受賞した。

 「ひのき草木染織工房」(TEL0867・44・2013)では、ハンカチやのれんの草木染や藍染め体験ができる。材料費別で3千円から。要予約

 《アクセス》JR中国勝山駅から徒歩約5分。


ぶらり発見

酒粕(さけかす)チーズケー

町並み保存地区にあるNISHIKURA(TEL0867・44・5300)は、1804年創業の造り酒屋「御前酒蔵元 辻本店」の直営店やカフェなどを備えた施設。カフェでは甘酒ラテや酒粕(さけかす)チーズケーキ=写真=などを提供する。午前10時~午後5時。

 隣の久世駅から徒歩10分。1907年完成の旧遷喬(せんきょう)尋常小学校は、洋式建築を模した木造校舎だ。内部の見学可。午前9時~午後6時。原則(水)休み。学校制服を着て給食を食べるイベント(要予約、有料)も。問い合わせは真庭エスパス文化振興財団(42・7000)。

(2017年6月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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