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アートリップ

雲水一疋龍 
前川三四郎作(富山県南砺市)

町に伝わる木彫りの技

写真は部分。1879年の大火の際、この竜が飛び出て井戸の水を吹きかけ、山門を延焼から守ったと伝わる=伊ケ崎忍撮影
写真は部分。1879年の大火の際、この竜が飛び出て井戸の水を吹きかけ、山門を延焼から守ったと伝わる=伊ケ崎忍撮影
写真は部分。1879年の大火の際、この竜が飛び出て井戸の水を吹きかけ、山門を延焼から守ったと伝わる=伊ケ崎忍撮影 「瑞泉寺前」停留所は竜の透かし彫り=伊ケ崎忍撮影

 ウサギの透かし彫りが付いた停留所でバスを降りて少し歩くと、ノミをたたく音が聞こえ、木の香りが鼻をかすめた。

 富山県南砺市の井波地区。国の伝統的工芸品「井波彫刻」の産地だ。1390年に建立された井波別院瑞泉寺の門前町として発展し、寺からのびる八日町通りには今も古い町並みが残る。家々は世帯主の干支(えと)を彫った表札を掲げ、電話ボックスには木彫りの鳳凰(ほうおう)が羽を広げる。

 井波では、日光東照宮など全国の寺社彫刻や一般住宅の欄間などを手がけてきた。彩色しない透かし彫りが特長で、200本以上のノミと彫刻刀を使い分けて、緻密(ちみつ)で立体感のある作品を彫り上げる。その技を学ぼうと、全国から若者がやって来る。現在、弟子を含め200人以上の彫刻師が住むという。

 この地で彫刻が盛んになった由縁は、焼失と再建を繰り返した瑞泉寺にある。江戸中期、本堂再建のため、京都から本願寺の御用彫刻師・前川三四郎が派遣され、地元大工らが技を習ったのが始まりとされる。井波に残る前川の作品が、山門正面の彫刻「雲水一疋龍(うんすいいっぴきりゅう)」だ。

 「瑞泉寺の彫刻がお手本。たまに見に行きます」と話すのは、八日町通りに工房を構える野村清宝さん(83)。「現代の名工」で、彫刻を始めて70年近く。それでも「いつも研究ですわ」。右手小指のタコがその歴史を物語っていた。

(牧野祥)

 井波別院瑞泉寺

 真宗大谷派の井波別院瑞泉寺は、本願寺5世綽如(しゃくにょ)上人によって創建されたと伝えられる。本堂は1885年に、太子堂は1918年に再建された。欄間や、柱から突き出した「木鼻(きばな)」などに井波彫刻の技が駆使されている。1792年に建てられた勅使門には、井波彫刻の元祖とされる田村七左衛門の代表作「獅子の子落とし」がある。拝観料500円。

 《アクセス》新高岡駅か高岡駅からバスで約1時間。「瑞泉寺前」下車徒歩3分。


ぶらり発見

BED AND CRAFT TAE(タエ)

 井波には職人に「弟子入り」できる宿が3軒ある。そのうちのBED AND CRAFT TAË(タエ)は瑞泉寺から徒歩5分。1日1組(5人まで)限定で、1泊1人1万2千円(1人追加ごとにプラス4千円)。体験=写真=は約3時間で別途1人1万円。木彫りのスプーンや豆皿などが作れる。問い合わせはコラレアルチザンジャパン(0763・77・4544)。

 南砺市の一部で食されるドジョウのかば焼き。瑞泉寺から徒歩8分の福光屋食堂(TEL82・0005)では、串1本100円、丼は900円で提供する。午前10時~午後7時。(日)休み。

(2018年5月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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