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アートリップ

湖を見るヴォワイヤン 
今井祝雄(のりお)作(滋賀県大津市)

虹色の「7人」ずらり

眼下を走るJR湖西線の電車からも7体が見える=楠本涼撮影
眼下を走るJR湖西線の電車からも7体が見える=楠本涼撮影
眼下を走るJR湖西線の電車からも7体が見える=楠本涼撮影 キャンパス内の同大准教授・君平さんの作品「イカダモ」。琵琶湖に生息するプランクトンに着想を得た=楠本涼撮影

 青々とした芝生と木々の向こうに琵琶湖が一望できる成安造形大のキャンパス。そこに、ひときわ目を引くカラフルな7体の彫像がある。美術家で同大名誉教授の今井祝雄さん(72)の作品だ。

 タイトルの「ヴォワイヤン」は仏語で「見る人」の意味。眼鏡をかけ、じっと前を見据えている。本来見られる対象である彫像だが、発想の転換をした。「現代人は、見ているようで見ていない。まず見ることが大切。彼らを通して景色や景観を見てみてほしい」

 虹色に塗り分けられた7体は、成人男性の実寸大。石膏(せっこう)像をもとに樹脂で作られた。ちょうど人一人座れるほどの間隔を空けて整列しているため、間に同じポーズで座って写真を撮る人の姿が頻繁に見られる。

 もともとは、1994年に京都市で開催された「平安建都1200年祭」の会場に展示された作品で、前年に開学した同大に64体のヴォワイヤンが移設された。湖に向かってずらりと並んだ様子は圧巻だったという。その後7体だけを残し、京都や宮崎など各地に寄贈した。

 開学翌年から今日まで琵琶湖と大学の歴史を見つめてきた。「大学の目印のような存在です」と現代アートのコースで学ぶ4年生の中村あかりさん。今井さんは「地域のお地蔵さんみたいに可愛がってもらえたら」。

(秦れんな)

 成安造形大学

 1920年に京都市に成安裁縫学校として創立した京都成安学園が母体。滋賀県唯一の芸術大で、約800人の学生が学ぶ。同学園の90周年を記念して2010年10月に回遊式の美術館「キャンパスが美術館」がオープン。キャンパス内の九つのギャラリーに在学生や教職員、卒業生の作品を展示する。国内外で活動するアーティストの企画展も開催。地域交流の場にもなっている。

 《アクセス》JRおごと温泉駅からスクールバスで約5分。


ぶらり発見

穴太(あのう)積み

 キャンパス内のカフェテリア「結(ゆい)」紀伊國屋(TEL077・573・5539)では、地元産の米や季節の野菜を使用した「棚田ランチ」(800円~)や「特製カレーセット」(650円)が食べられる。併設のパン工房「PUKURI」では焼きたてのパンを販売。建物は学生たちが主体となって設計、建築した。

 同大から車で約15分の大津市坂本は、比叡山延暦寺の門前町として栄えた。自然石を組み合わせた石垣「穴太(あのう)積み」=写真=が見られる。問い合わせは坂本観光協会(578・6565)。

(2018年6月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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