読んでたのしい、当たってうれしい。

アートリップ

水の樹 
森本千絵監修(青森県八戸市)

広がる水の波紋 光と音と

流れる楽曲「水の声」は坂本美雨と八戸出身の音楽家、haruka nakamuraとの共作=伊ケ崎忍撮影
流れる楽曲「水の声」は坂本美雨と八戸出身の音楽家、haruka nakamuraとの共作=伊ケ崎忍撮影
流れる楽曲「水の声」は坂本美雨と八戸出身の音楽家、haruka nakamuraとの共作=伊ケ崎忍撮影 夜はライトアップで幻想的に=伊ケ崎忍撮影

 太平洋に面した青森県八戸市の中心街。ガラス窓に囲まれた空間に、水色のオブジェが透けて見えた。ここは市民広場「マチニワ」。その中央に立つのが、シンボルオブジェ「水の樹(き)」だ。

 樹木形の噴水兼水飲み場で、幅6・8メートル、高さ7・6メートル。「大地に根を張り、枝葉が天高く伸び、全てをつないで育っていくように」がコンセプト。地下貯水槽からくみ上げ、中心部のステンレス製支柱から流れた水が、ししおどしを通って落ちる。

 周辺では、約30年前から大型商業施設の移転が相次いでいた。その後空きビルが目立ち、人通りが減少。そこで市が街歩きの拠点として、今年7月にオブジェと広場を完成させた。「ガラス張りで通り抜けができる空間は、開放感を意識した設計です」と市職員の十文字俊祐さん(42)。オブジェのデザインを監修したのは、同県三沢市出身のアートディレクター、森本千絵さん(42)。光を受けると葉に見立てた受け皿に水の波紋が広がる。「水色と紫色がシャボン玉みたい」と小学6年の男の子は笑う。

 広場は朝6時から夜11時まで開放。1時間に1回、音楽が流れる。60代女性は「水琴窟の音みたいで心地いい」と耳を澄ます。噴水ではしゃぐ子ども、ベンチでバスを待つ高齢者、談笑する学生――ここに根付いた「水の樹」は、街のオアシス的存在になりつつある。

(石井広子)

 八戸まちなか広場 マチニワ

 漁業や工業によって発展してきた八戸市。その中心街の「庭」のような場所として建てられた、ガラス屋根付きの全天候型広場だ。790平方メートル、高さ15メートル。向かいには、芸術家が滞在して制作するスペースなどがある文化施設「八戸ポータルミュージアムはっち」が立つ。広場1階レンタルスペースでは市民の発案などでイベントも開催し、大型スライドドアは季節に応じて開閉可能。南部赤松の天井の格子から光が差し込む。

 《アクセス》本八戸駅から徒歩約10分。


ぶらり発見

八戸ブックセンター

 マチニワを通り抜けた先のビル1階にあるのが、国内でも珍しい市直営の書店、八戸ブックセンター(TEL0178・20・8368)。「本のまち八戸」を推進する拠点として古本市なども開催する。著名人らが決めたテーマごとに本を陳列。コーヒー片手に本選びができる。午前10時~午後8時。(火)休み。

 マチニワから徒歩1分のサバの駅(TEL24・3839)は、八戸港でとれた「八戸前沖さば」の料理が味わえる専門店。銀サバの串焼き(1本508円)、棒ずし(4貫1296円)など。午後5時~翌午前0時。(日)休み。

(2018年10月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

アートリップの新着記事

新着コラム

  • 美博ノート 五十三次 京三條橋 江戸・日本橋から約500キロ、東海道五十三次の終着点は京の玄関口・三条大橋。東山や八坂の塔を背景に、頭に薪をのせて売り歩く大原女、茶筅をさした竹棒をかつぐ茶筅売り、衣を頭にかぶった被衣姿の高貴な女性が行き交う。

  • 私のイチオシコレクション カメイ美術館 当館は仙台市に本社をおく商社カメイの第3代社長を務めた亀井文蔵(1924~2011)が半世紀以上かけて収集したチョウをコレクションの柱の一つとし、約4千種、1万4千匹の標本を展示しています。

  • 建モノがたり 本館古勢起屋 (山形県尾花沢市) 川の両岸にレトロな旅館が立ち並ぶ。そんな銀山温泉のイメージを体現する築110年の「本館古勢起屋」は、老朽化などのため約20年ほぼ放置されていた。

  • ななふく浪曲旅日記 浪曲は治療、なら、浪曲師はお医者さん? 朝日新聞のWEBRONZA論座で「ななふく浪曲旅日記」として、連載をさせていただいておりました。浪曲のお仕事でさまざまなところへ旅をする中で感じたことを綴っておりましたのを、装い改めて、こちらで再連載することになりました。どうぞよろしくお願いいたします。