読んでたのしい、当たってうれしい。

アートリップ

OROCHI 
澄川喜一作(島根県益田市)

大蛇に親しみ込めて

御影石は山口県の黒髪島で採掘、加工した。隙間は通り抜けができる=滝沢美穂子撮影
御影石は山口県の黒髪島で採掘、加工した。隙間は通り抜けができる=滝沢美穂子撮影
御影石は山口県の黒髪島で採掘、加工した。隙間は通り抜けができる=滝沢美穂子撮影 センター内には、大蛇の動きをイメージした澄川さんの彫刻も=滝沢美穂子撮影

 飛行機が萩・石見空港に近づくと、赤褐色の石州瓦の屋根が点在する益田市内の町並みが見えてきた。ひときわ目を引いたのが、建物すべてが石州瓦で覆われた文化施設、島根県芸術文化センター「グラントワ」だ。

 入り口近くの小高い丘には、御影石でできた高さ3・9メートル、長さ9・4メートルの「OROCHI(おろち)」が鎮座し、来る人を出迎えている。作者は、センター長で彫刻家の澄川喜一さん(87)。

 石見神楽に登場する「大蛇(おろち)」を子どもたちに親しんでもらいたいと漫画的でユーモラスに表現した。益田市の南の旧六日市町(現吉賀町)出身で、小さい頃は近所の神社で神楽をよく見た。中でも大蛇はトリの演目で、それまで眠くても「大蛇が出るぞー」と言われるとぱっと目が覚めたという。

 グラントワの設立は、25年ほど前の、益田市に文化施設がほしいという市民運動から始まった。当時、東京芸術大教授だった澄川さんは、「小さな町には無理と、火消し役をかって出たら、一緒に火を広げてしまった」と笑う。場所の選定や建築などにも関わり、2005年の開館後はセンター長として毎月東京から通っている。

 「子どもたちに地域の歴史を大事にして、自信を持ってもらえたら」と澄川さん。平日の昼間、散歩にやってきた保育園児たちは楽しそうにOROCHIと遊んでいた。

(石井久美子)

 グラントワ

 森鷗外ゆかりの美術家やファッションなどをテーマに作品を所蔵する石見美術館と、大小のホールを備えるいわみ芸術劇場の複合施設。設計は建築家の内藤廣。中庭を取り囲むように美術館やホールが配置され、屋根と外壁には耐久性に優れた石州瓦28万枚を使用。約80人のボランティアが館内に花を生けたり、広報物の発送作業を手伝ったりしている。5月には入館者数500万人を予定している。

 《アクセス》 益田駅から徒歩15分。


ぶらり発見

田吾作定食とちょっと刺身

 グラントワからバスで10分の医光寺(TEL0856・22・1668)と、そこから徒歩5分の萬福寺(TEL22・0302)には、室町時代の画僧・雪舟作庭の庭園がある。いずれも、国指定史跡名勝、午前8時半~午後5時半(冬季は5時まで)、拝観料500円。

 グラントワから徒歩20分、地元の海と山の幸を味わえる田吾作(TEL22・3022)では、ランチ限定の「田吾作定食とちょっと刺身」(写真、1620円)がおすすめ。高津川河口で採れる鴨島はまぐりの酒蒸しなどもある。正午~午後11時。不定休。

(2019年3月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

アートリップの新着記事

新着コラム