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アートリップ

小田原讃歌(さんか)
片岡鶴太郎作(神奈川県小田原市)

アジやヒラメがお出迎え

約30センチ四方の陶板を430枚使用して制作=横関一浩撮影
約30センチ四方の陶板を430枚使用して制作=横関一浩撮影

 東海道線の車窓に穏やかな海が広がった。小田原駅に降り立つと、箱根に向かうのか、荷物を抱えた国内外の旅行客でにぎわっている。小田原はかつての東海道の宿場町で城下町として栄えた。海が近く水産物が豊富で、かまぼこでも有名だ。江戸時代、旅人の必需品として梅干しが重宝されたことから、梅も特産品として知られる。

 改札口を出て左を見上げると、深い藍色が印象的な壁画に出会った。俳優で画家の片岡鶴太郎さん(64)が原画を描いた陶板レリーフで高さ約3メートル、幅約15メートルの大きな作品だ。「小田原の自然の中でいのちいっぱいに生きている生活に讃歌を贈る絵を描きたいと思った」(片岡さん)という通り、ヒラメやアジ、イシダイのほか、梅や桜など地域にゆかりの深い動植物がいきいきと描かれている。

 作品は、2003年の冬に、駅の東西自由連絡通路「アークロード」の開通記念制作物として設置された。富士山や箱根への玄関口の小田原に、「観光客を迎えるおもてなしの心を表すものを」との思いから、「わたしたちの自由通路をつくる市民の会」が寄付金を募り、あたたかみと優しさが感じられる絵柄の片岡さんに依頼したという。

 通勤で駅を利用する団体職員の樋口裕紀さん(43)は、「藍色で落ち着いた雰囲気が小田原の町に合っている。自然にそこにある感じです」と語る。大画面にのびのびと泳ぐ魚たちは、今日も行き交う人々を見守っている。

(清水真穂実)

 小田原駅

 東海道線、東海道新幹線、小田急線、箱根登山鉄道、伊豆箱根鉄道の5線が通る。東西自由連絡通路には、「巨大小田原ちょうちん」とステンドグラスも。


ぶらり発見

だるま料理店 小田原駅から8分、国の登録有形文化財の建物のだるま料理店 食堂(問い合わせは0465・22・4128)では、新鮮な海の幸を特製ゴマ油で揚げた「海老天丼セット」(写真、2484円)が人気。今が旬の「あじずし」も。午前11時~午後8時。無休。

 1885年築の蔵を利用した外郎(ういろう)博物館(問い合わせは24・0560)は、駅から徒歩15分。菓子と薬の「ういろう」の店舗に併設し、由来などを紹介している。無料。午前10時~午後5時。(水)と第3(木)休み。

(2019年5月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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