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オトコの別腹

山本幸久さん
「フランス製菓」のタヌキ

「フランス製菓」のタヌキ
「フランス製菓」のタヌキ
「フランス製菓」のタヌキ 山本幸久さん

 10年前、かわいいし2人の子どもが喜ぶだろうと思って買ったら、富山県出身の奥さんが知っていたんです。子どものころに食べていたらしく、そこから興味を持って何軒かまわったうちの一つが「フランス製菓」。タヌキケーキは、昭和40年代、ケーキが高級品だったころに、町のケーキ屋さんが手が届くような値段で作ったもの。当時は全国的にはやったみたいだけど、今は都内でもほとんど見かけず、絶滅危惧種的な扱いなんです。

 ここは形がしっかりした正統派のタヌキ。こってりと甘いバタークリームとスポンジが、チョコレートでコーティングされています。昔家庭で作ったときのガツンと甘いクリームの味がして、懐かしい。お金がかからないように工夫を重ねたころのまま、時代を生き抜いてきたんだなと感じます。

 色々なケーキが並んでいるショーケースに、いきなりタヌキがいるとちょっと笑っちゃう。「まだいるんですよ」って消極的なたたずまいが、哀愁があっていいんです。一度小説に書こうと思ったこともある。見た目もいいし、もっと世間に普及してほしいですね。

 ◆東京都板橋区赤塚2の2の5
(問い合わせは03・3930・2255)。
 280円。
 「大仏サブレー」(1個110円)も人気。
 午前9時~午後8時。(火)休み。


 やまもと・ゆきひさ 作家。
 6日に「あっぱれアヒルバス」(実業之日本社文庫)が発売。近著に「店長がいっぱい」(光文社文庫)、「誰がために鐘を鳴らす」(角川文庫)など。

(2019年8月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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