五十三次 府中
日暮れて間もない時分、遊郭の入り口で、ちょうちんを持った女性と馬上の遊客が言葉をかわす。馬の尻にはひもでつるされた馬鈴。「りんりん」とリズム良く響かせながらやってきたのだろうか
戦争や天災の混乱と復興に揺れた1940~50年代の愛知。55年には、名古屋市・栄に愛知県美術館の前身である文化会館美術館が開設され、芸術発信の拠点が築かれた。
60年代以降、全国的な広がりをみせた「反芸術」や「概念芸術」「もの派」の動きが県内でも巻き起こる。既存の枠に収まらない、美術家集団による行動的な表現(ハプニング)が活気づいた。
前衛絵画グループを母体とし、加藤好弘や岩田信市らが結成した「ゼロ次元」もその一つ。本作は、63年1月のパフォーマンス記録。「人間の行為をゼロに導く」というコンセプトのもと、栄の市街地を赤ちゃんのずりばいで行進する様子だ。学芸員の副田一穂さんは「日常空間に異物としてハプニングを投じることで『芸術とは何か』を社会に提議している」と話す。