雪華図説
約20年にわたる研究成果を「雪華図説」にまとめ、雪の結晶図86種を記録した。
歌川広重の名所絵といえば東海道五十三次。出版元の名から「保永堂版」とよばれる出世作が有名だが、ほかにも趣向の異なるさまざまなシリーズ二十数種を、生涯にわたって残している。
この作品は50代の頃に手がけた「隷書版」から。伊勢湾に面した三重・桑名の海を舞台に、帆船を大きく配した。この時期の広重は、それまでの構図への工夫から、繊細な色の表現へと重心を移していたという。波の線は穏やかだが、青のグラデーションで画面に奥行きが生まれ、淡い色の空に帆の白さが際立つ。
分業制の浮世絵では「摺(す)り師」が彩色を担う。「絵師の指示が行き届いた『初摺(しょずり)』に近いものほど、見事な表現が見てとれます」と学芸員の中村香織さんは話す。
今展では30代で手がけた「保永堂版」、40代の「行書版」の同じ場所を描いた作品も展示する。広重の作風の変化や、華美を禁じる幕府の統制により浮世絵の色数が制限された影響など、時代背景も見比べることができる。