読んでたのしい、当たってうれしい。

美博ノート

「上絵金彩花鳥図カップ&ソーサー」

優美な曲線から歴史が伝わる カップ&ソーサー物語(横山美術館)

明治前期~中期 井村彦次郎陶器店
明治前期~中期 井村彦次郎陶器店

 東洋風の山水に色とりどりの花と鶴。金の縁取りが施された本作は「日本横濱 井村製」との銘がある。

 港や居留地のある横浜では明治初め、輸出向けの陶磁器の生産や販売が急成長した。横浜随一の陶磁器商・井村彦次郎は瀬戸など他産地の白地の焼き物に絵付けして販売する「横浜絵付(えつけ)」の先駆者とされる。

 カップを内側から見ると絵が透けて見えるほど薄い。「卵殻手(らんかくで)(エッグシェル)」と呼ばれ、長崎の三川内(みかわち)焼から技術が広まり、明治以降に各地で生産されるようになったという。

 学芸員の中澤麻衣さんは「薄く均一で技術の高さがわかります」と話す。熱湯で抽出する紅茶の器は、冷めやすいように薄手で飲み口が広いものが好まれた。

 明治・大正期、国を挙げて欧米への輸出が奨励された陶磁器。今展では各地でつくられた華やかな茶器145点を紹介する。

横山美術館
https://www.yokoyama-art-museum.or.jp/

(2021年11月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

美博ノートの新着記事

  • 上絵金彩綾棒踊(あやぼうおどり)図花瓶 山吹色から青色へ。本作品にも見られる鮮やかなグラデーションを得意としたのは明治時代に活躍した京都の窯元・九代帯山与兵衛(1856~1922)。技巧的な造形と華麗な色使いが、海外で高い評価を得た。

  • 釉下彩透彫(ゆうかさいすかしぼり)朝顔文花瓶 全体を包み込むように、大輪の花を咲かせる朝顔。透かし彫りが涼やかな本作品は、京都の窯元・七代錦光山宗兵衛(1868~1927)が、新しい技術や流行を取り入れて制作した。

  • 上絵金彩花文麒麟鈕(きりんちゅう)大香炉 墨色で丹念に描かれた木目模様。ふたには透かし彫りが施され、最上部に構える麒麟(きりん)の小さな牙が何本も見える。

  • 徳川家康画像(部分) 徳川家康晩年の肖像は、九男で尾張家初代の徳川義直(1600~50)が描いたものだ。面長でふくよかな顔、福耳、小ぶりな口などの特徴を捉えている。

新着コラム