私の描くグッとムービー

桑久保徹さん(画家)
「夜になる前に」(2000年)

明るく湿ったキューバの空気

 カストロ政権下のキューバで、作家で同性愛者の主人公レイナルドが、政府から弾圧や迫害を受けながらも強く生きた物語。実在の人物で、自伝がもとになっています。

 僕は、アトリエでじっと絵を描いているときに違う国や時代のことを想像して、豊かになる気がする。同じように、この映画を見ると、キューバに行ったことはないのに、映像や話の流れ、役者の動きなんかで、行った気になる。映画に出てくるホモセクシュアルの男たちは、ストレートの僕でも、美しいと思う。そういった感覚って言葉で説明しても分からない。この映画でしか知り得ない世界を知ることができたんです。

 レイナルドは、大学に通いながら作家を目指し、同性愛に目覚めていく。1作目は社会で評価されたが、次第に政府の弾圧を受けて、反逆者と見なされてしまいます。ナイーブに見えて強い。警察に捕まってもあっさり脱獄し、さらに逃げようとタイヤを浮輪にして海を渡る。大胆で「絶対生き残る」っていう生命力がある。エネルギーの強い人が、何かを成し遂げるんだなって思います。

 絵に描いたのは、青空の下でレイナルドがタイプライターを打つところ。好きな場所で好きなことをやるって、表現者にとって夢みたいだな。カラッと明るい中に、どこか湿り気もあるキューバの空気感を出したくて、発色がいい水彩で。普段は油彩を描いていて、実は水彩って20年ぶりでした。

聞き手・笹木菜々子

 

  監督=ジュリアン・シュナーベル
  製作=米
  出演=ハビエル・バルデム、オリヴィエ・マルティネス、ジョニー・デップほか
くわくぼ・とおる 
 1978年、神奈川県座間市生まれ。10月8日まで、渋谷ヒカリエ8階の8/ART GALLERY/Tomio Koyama Galleryで個展を開催中。

(2018年9月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

広告
「私の描くグッとムービー」の新着記事 一覧を見る
シャンプーハット こいでさん(芸人) 「レナードの朝」(1990年)

シャンプーハット こいでさん(芸人)
「レナードの朝」(1990年)

この物語は、脳神経科医オリバー・サックスの回想録が基になっています。

ヨシタケシンスケさん(絵本作家)「ウォーリー」(2008年)

ヨシタケシンスケさん(絵本作家)
「ウォーリー」(2008年)

一言で言うと、壮大なブラックユーモアの塊みたいな映画に見えたんですよ。

望月通陽さん(染色家)「大魔神」(1966年)

望月通陽さん(染色家)
「大魔神」(1966年)

悪人を見すえる充血した目。すべてを破壊する大きな手。大魔神の圧倒的な力に出合ったのは、染物屋から独立した24歳の頃でした。

板垣巴留さん(漫画家)「メッセージ」(2016年)

板垣巴留さん(漫画家)
「メッセージ」(2016年)

エイリアンとのコミュニケーションを淡々と描いた異色のSFです。SFというより、一人の女性の感動的な生き様を見た気分になりました。

新着コラム 一覧を見る
「銀座 立田野」の立田野あんみつ

オトコの別腹

木場勝己さん
「銀座 立田野」の立田野あんみつ

子どもの頃、祖母が火鉢であんこを煮てくれました。それをお汁粉にしたり、おはぎにしたりと、あんこは家で食べる物だったんです。

「スパ吉」の明太子(めんたいこ)とウニとイカのバター風味

おんなのイケ麺(めん)

花澤香菜さん
「スパ吉」の明太子(めんたいこ)とウニとイカのバター風味

学生の頃はお仕事と学業の両立で、頑張った日は「自分にご褒美」って、スパ吉に行っていました。本当においしいんです。

タブレット純の「昭和歌謡に恋した私」

タブレット純の「昭和歌謡に恋した私」

<上> ムード歌謡・ロシア民謡編

歌手でお笑い芸人のタブレット純さんが、自身のエピソードを交えながら昭和歌謡の魅力を紹介します。

西村千太郎「納屋橋風景」

美博ノート

西村千太郎「納屋橋風景」

名古屋市美術館は、地元を中心に東海地方にゆかりのある作家の作品も収集している。本作は、同市出身の洋画家・西村千太郎(1907~94)の風景画。

♪プレゼント♪

マイページへ 新規会員登録

プレゼント応募時に1度会員登録をされると、以後はパスワードなどの入力だけでご応募いただけます。