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私の描くグッとムービー

小迎裕美子さん(イラストレーター)
「トッド・ソロンズの子犬物語」(2015年)

さえない飼い主 渡り歩く犬

小迎裕美子さん(イラストレーター)「トッド・ソロンズの子犬物語」(2015年) 

 月刊誌に連載中の映画コラムで挿絵を担当しているので、今までに多くの作品を見てきました。この作品は万人受けしないブラックコメディー。かわいい犬の話だと思ったら大間違いです。犬好きな人は見ないほうがいいかもしれませんね。


 病弱な男の子とその両親、獣医師の助手、生徒からナメられている映画学校の講師兼脚本家、偏屈なおばあさんと金を無心する孫娘。ものすごく不幸ってわけではないけれど、さえない日常を送る4組の飼い主のもとを、1匹のダックスフントが渡り歩くオムニバスです。それぞれの話の根底に「死」というネガティブな要素が絡んでいますが、笑ってしまう箇所が随所に盛り込まれています。気まずさだとか、後悔だとか、誰にでも心当たりのある「負」の感情を抱え込んでいる登場人物。その姿は不謹慎な例えですが、他界した父に対面したとき、女性ものの下着のようなツルツルした布が顔にかかっていて、つい噴き出してしまった、みたいなおかしみがあるんです。


 ソロンズ監督のデビュー作「ウェルカム・ドールハウス」で主人公だった少女ドーンが、第2話に出てくる獣医師の助手で登場します。クラスメートだった男性に再会して、誘われるがまま仕事を放り出して旅に出てしまう。出かける前日に自室のベッドに腰掛けて「ここに未練なんてない」とつぶやくシーンは、なんとなく「ここじゃない別の場所に逃げ出したい」感情と重なって、感慨深かったですね。


 人の本質を「ちょっと意地悪」な目線で捉えたこの作品は、私のバイブルです。

聞き手・尾島武子

 

  監督・脚本=トッド・ソロンズ
  製作=米
  出演=ダニー・デビート、エレン・バースティン、
     ジュリー・デルピーほか
こむかい・ゆみこ
 雑誌や書籍の挿画などを手がける。著書に紫式部の日記を漫画化した「人生はあはれなり…紫式部日記」(KADOKAWA)も。
(2019年4月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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