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私の描くグッとムービー

信濃八太郎さん(イラストレーター)
「殺人者たち」(1964年)

相棒ものの男臭さと乾いた世界観

信濃八太郎さん(イラストレーター) 「殺人者たち」(1964年)

 荒々しいスチール写真の上全体に赤や青色がかかった印象的なタイトルバックとジャズっぽい音楽。しょっぱなからぐっと引き込まれましたね。

 物語の構成も新鮮でした。「なぜあの男は逃げようとしなかったのか?」。依頼を受けて盲学校の教師ジョニーを殺した2人組の殺し屋の一人が疑問をもちます。彼らはジョニーを知る人物を訪ね、脅迫しながら過去を聞きだしていくんです。暴力的な「現在」のシーンと、脅される人物が語る少し感傷的な回想シーンが交互に描かれます。

 かつてレーサーだったジョニーは、シーラという女に出会って身を持ち崩していく。シーラは彼をジャックという男に引き合わせ、現金輸送車を襲う計画に加わらせる。彼女は自分との未来をジョニーにほのめかしていたのに、裏切るんです。ヘミングウェーの同名短編小説のモチーフをもとに、かなり話を膨らませています。

 イラストレーターとして見てもかっこいい構図がたくさんありました。冒頭の盲学校のシーンではカメラを傾けて映したり、ラストシーンでは殺し屋が地面に倒れた後すぐ上方からの俯瞰になったり。相棒ものの男臭さと乾いた世界観にも引かれ、見終わった後に絵を描きたくなりましたね。

 初めて見たのは10年ほど前の今頃。声帯ポリープの手術後、しゃべることを禁じられていた時でした。妻もつわりがひどく、家庭は殺伐とした雰囲気で。そんなとき恩師の故・安西水丸さんがこのDVDを貸してくれたんです。この時期になると当時を思い出し、なぜか見たくなります。

(聞き手・牧野祥)

  監督=ドン・シーゲル
  製作=米
  出演=リー・マービン、アンジー・ディッキンソン、ロナルド・レーガンほか
しなの・はったろう
 雑誌や書籍、広告などで活動。WOWOWの映画番組「W座からの招待状」で放送作家の小山薫堂さんと案内人役を務める。
(2019年9月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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