私の描くグッとムービー

ますこえりさん(イラストレーター)
「ジョゼと虎と魚たち」(2003年) 

恋を達観した少女の存在感

 田辺聖子さんの短編小説が原作です。平凡な大学生の恒夫と、足が不自由で祖母が押す乳母車に人目を忍ぶように乗る少女ジョゼの恋愛物語。2人の恋の終幕は冒頭、フィルムカメラで撮られたスナップ写真がパシャ、パシャと切り替わり、恒夫が「真冬の旅行だった。すっげぇ寒かったのを覚えている……懐かしいな……これってもう何年前だっけ」と回顧するシーンで語られています。

 初めて見たのはテレビの深夜放送。私はまだ20代前半の実家暮らしで、家族は寝静まり、冬なのに暖房も入れずに毛布をかぶりながら号泣したのを覚えています。映画から漂う凜とした冷たい空気感、リアルな人間描写、センチメンタルな恋模様が自身の記憶と重なり、言葉にならない感情が押し寄せました。映画を「見た」というより「体感した」感じです。端役が丁寧に描かれていることも臨場感が増した理由の一つ。私たちが存在する世界は一人ひとりが主役として生きていて、そんな人間が何億といる。だから虚構の世界であっても、そこにちゃんと人物や出来事が存在している、と思える描き方に共感しました。

 ジョゼは本の虫。祖母がゴミ置き場から拾ってきたサガンの「一年ののち」が愛読書で、主人公の名を取って自分をジョゼと呼んでいます。外界を知らず、恋愛経験もないけれど、本から得た知識でどこか達観していて恒夫との恋にも終わりがあることを見通している。この絵は、好きなものを集めてずっと自分だけの世界で生きてきた、他の誰も持っていない、ジョゼの唯一無二の存在感を描きました。

(聞き手・井本久美)

 

  監督=犬童一心
  原作=田辺聖子
  脚本=渡辺あや
  出演=妻夫木聡、池脇千鶴、上野樹里ほか
ますこえり
 埼玉県生まれ。雑誌や書籍、広告などのイラストのほか、グッズのデザインも手がける。東京・千駄木の文房具店GOATとのコラボ商品も販売中。

(2019年11月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

「私の描くグッとムービー」の新着記事 一覧を見る
三遊亭兼好さん(落語家) 「運動靴と赤い金魚」(1997年) 

三遊亭兼好さん(落語家)
「運動靴と赤い金魚」(1997年) 

ゲラゲラと笑って見るのが好きな人間でしてね。でも、この映画は私が28歳で入門して間もない頃かな、妻がDVDで借りてきたのを一緒に見て、幼い兄妹と家族の温かさに胸を打たれた作品です。

丸山誠司さん(絵本作家)「Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(2011年)

丸山誠司さん(絵本作家)
「Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(2011年)

ドイツの舞踊団を率いた振付家で舞踊家のピナ・バウシュを、この映画で知りました。

「雪之丞変化」(1963年)

小田桐昭さん(クリエーティブディレクター)
/「雪之丞変化」(1963年)

電通に入ってCM(コマーシャルメッセージ)の作法を手探りで考えていたころに公開された映画です。時間を省略して表現する「時間のデザイン」という観点で刺激の多い作品だったのでよく覚えています。

「夜行列車」(1959年)

菊地信義さん(装幀家)
「夜行列車」(1959年)

夏の週末、ポーランドの首都ワルシャワからバルト海沿岸の避暑地へ、様々な男と女の人間模様を乗せて向かう夜行列車。若い男との恋の始末に旅へ出た主人公のマルタは、手術中の患者の死にさいなまれ列車に飛び乗った医師のイエジーと、偶然、1等車のコンパートメントに乗り合わせます。

新着コラム 一覧を見る
『男と女 人生最良の日々』

シネマNEWS

⼭⽥洋次監督もコメント!『男と女 人生最良の日々』 著名⼈も⼤絶賛!

第1作目から50年を経て新たな『寅さん』を2019年に送り出した山田洋次監督からは「はじめて『男と女』を観たときのあのふるえるような感動。

『男はつらいよ』

シネマNEWS

シリーズ史上初!『男はつらいよ』入場者プレゼントで豪華3種ポストカードセット!!

観客動員数が100万人を突破!大ヒットを記念して、『男はつらいよ』シリーズ史上初となる入場者プレゼントの実施が決定した。

世田谷美術館

気になる一品

世田谷美術館

「素朴派」の絵画を多く収蔵する世田谷美術館。ショップでは、素朴派を代表する仏のアンリ・ルソー「フリュマンス・ビッシュの肖像」をモチーフにした「ルソースタンドメッセージカード」が人気だ。

段ボールSL 島英雄作(熊本県南関町)

アートリップ

段ボールSL
島英雄作(熊本県南関町)

千平方メートルの屋内展示場に子どもたちの歓声が響く。その指さす先にあるのは段ボール製の蒸気機関車(SL)「D51」だ。全長20、幅3、高さ4メートルの実物大で、車輪を動かす装置など1700の部品はすべて段ボール。精巧に再現され、今にも動き出しそうだ。

♪プレゼント♪

マイページへ 新規会員登録

プレゼント応募時に1度会員登録をされると、以後はパスワードなどの入力だけでご応募いただけます。