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私の描くグッとムービー

呪みちるさん(ホラー漫画家)
「ミクロの決死圏」(1966年)

体内を冒険 妄想が走り出す

呪みちるさん(ホラー漫画家)<br>「ミクロの決死圏」(1966年)

 潜航艇ごとミクロになった医療チームが、人間の体の中を冒険する話です。小学校入学前くらいにテレビ放映で見ました。もともと解剖図が好きな子どもでしたが、小さいころって、見るもの触れるもの全てが未知。映画の世界と一体化してハラハラドキドキし通しでしたね。

 登場する潜航艇って、つくりがガラス張りで華奢(きゃしゃ)なんですよね。もうちょっと鉄で覆ってくれれば安心感があるのに、ほぼむき出しの状態。窓越しにどこからも気持ち悪いものが見えて、逃げ場がない。ラクエル・ウェルチ演じるコーラが、抗体にぐるぐる巻きつかれる場面も怖かったですね。見終わってしばらくは、「自分がもし小さくなったら」ってことばかり妄想していました。

 映画を見ていて、妄想が勝手に暴走することは今でもよくあるんです。「あ、この先、俺ならこうするな」と、映画をいったん止めて、妄想を漫画のネタにする。脳内で映像化されちゃって、映画を見た気分になっちゃう。後で見直すと全然違う話なこともあるんですけどね。

 ホラー漫画家なのに、実は、残酷なホラー映画が苦手なんです。血や内臓や虫が大っ嫌いで、恐怖症です。でも、自分の漫画ではすごく描くんですよ。セラピーというか、苦手なものを征服した気になるのか……。ただ、グロテスクなものを描くときには、なるべく汚くならないように、絵からにおいを感じさせないようにしています。「ミクロの決死圏」のイラストは、司令塔にある解剖図と、潜航艇、赤血球などを、サイケデリックな色彩で描いてみました。

(聞き手・宮嶋麻里子)

 

 監督=リチャード・フライシャー
   製作国=米
   出演=スティーブン・ボイド、ラクエル・ウェルチ、ドナルド・プレザンスほか
のろい・みちる
 別名義でデビュー後、1998年にホラー漫画家に転向。今年、フランスの出版社BLACK BOXから新編集の単行本2冊を発売した。
(2022年11月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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