読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

野球殿堂博物館

キューバの手製野球用具。グラブは縦25×横18×厚さ0.5センチ。ボールは直径6センチ

 今年3月に開催された野球の国際大会「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)では、子どもから大人まで熱戦を楽しんだのではないでしょうか。日本代表「侍ジャパン」を応援する一方で、世界各国の野球文化が気になった人もいるはず。そこで、当館では企画展「侍ジャパンと世界に広がる野球」を8月末まで開催しています。

 野球を取り巻く環境は国によって異なります。強豪国として知られるキューバですが、社会主義体制下での物資不足が続くなかでも、子どもたちは身近な材料を使って道具を手作りし、野球を続けてきました。それを物語っているのが、段ボールを縫い合わせたグラブと、テープを何重にも巻いて作ったボールです。

 寄贈者はスポーツライターの鉄矢多美子さん。1974年にキューバ代表が来日し、国際試合を行った際にアナウンスを務めた方です。試合後、鉄矢さんは複数回キューバを訪れて現地の子どもたちと交流を深め、お礼として実際に使っていたこのグラブとボールをプレゼントされたそうです。

 野球用具が十分に普及していなかった明治時代の日本でも、用具は手探りで作られていました。1890年代の捕手のマスクは剣道の面金を加工したもので、グラブも厚みがありません。米国のものを見よう見まねで形にしていたようです。

 展示資料は複製ですが、新しい製品が次々と登場する現代と比べて、工夫を重ねてできた用具からは「野球をしたい」という先人の熱意が伝わってきます。

 1959年に開館した当館は、東京ドーム完成の88年に現在の場所へ移転しました。プロ野球に限らず、社会人野球や高校野球、女子野球など多岐にわたる資料約5万点を収蔵しています。企画展では、各国のユニホームなども見ることができます。長い歴史の中で野球がどう世界に広がったのか、知ってもらいたいと思います。

(聞き手・大石裕美)


東京都文京区後楽1の3の61(☎03・3811・3600)。原則午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。800円。月(祝や夏休み期間などは開館)、年末年始休み。企画展は8月31日まで。

 

太田若葉

 学芸員 太田若葉 

 おおた・わかば 静岡県出身。明治大学大学院文学研究科博士前期課程修了。2022年から現職。専門は日本近現代文学、野球文化。

(2026年7月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。入館料、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • サントリー美術館 三つの山を並べたような形に、弓なりに高く渡した把手(とって)。落ち着いた赤と鮮やかな緑。全体が2色の絶妙なバランスによって構成されています。

  • ふじさんミュージアム 富士山の山開きシーズンになりました。北麓(ほくろく)にある当館は、世界文化遺産の要素として評価された富士山信仰がメインテーマ。

  • 東京国立近代美術館  人類が意識を持ち始めた頃にさかのぼることはできないか。

  • 遠山記念館 もやの切れ間から浮かび上がる浅葱色の内海。陸とも海とも判然としない、あいまいで不思議な水景は、京都の日本画壇「四条派」始祖、呉春(1752~1811)が描いた六曲一双の屛風「海辺山水図」です

新着コラム