読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

陶俑(とうよう) 松岡美術館

異国情緒漂う見事な装飾

三彩馬(さんさいうま) 唐時代・8世紀 高さ70×幅81.9センチ
三彩馬(さんさいうま) 唐時代・8世紀 高さ70×幅81.9センチ
三彩馬(さんさいうま) 唐時代・8世紀 高さ70×幅81.9センチ 三彩駱駝・三彩駱駝引き 唐時代・7~8世紀 高さ83×幅60.2センチ(駱駝)

 「俑」は人や動物の形をした像のこと。古代中国では死後も不自由なく暮らせるよう、王侯貴族の墓に陶俑を副葬していました。始皇帝を守る兵馬俑が有名ですね。漢代から唐代にかけて盛んに行われました。

 1975年に当館を創立した実業家の松岡清次郎は、中国陶磁を核に、陶俑も77点集めました。開催中の動物俑に焦点を当てた企画展から、唐三彩を2点紹介します。

 まずは、午(うま)年だった松岡が好んで集めた三彩馬。唐代の王侯貴族は、所有する駿馬(しゅんめ)に豪華な馬具をつけて社会的地位を誇示しました。さらには、愛馬をモデルに陶俑も作らせたのです。墓の主は不明ですが、この三彩馬も装飾が見事。白い馬体に流れる緑釉(りょくゆう)も美しいですね。漢の武帝が熱望したという、血のような汗を流して千里を走る名馬「汗血馬(かんけつば)」をほうふつとさせます。台盤の型押しは、連珠対禽文(れんじゅついきんもん)と呼ばれるペルシャ起源の文様で、シルクロードを通じて唐の都・長安で流行していたのでしょう。

 もう一方は、東西交易で砂漠を横断した駱駝(らくだ)。長安は駱駝を引き連れた隊商でにぎわいました。駱駝引きは、交易を担ったイラン系民族のソグド人。軍馬の飼育にもたけていて強い軍事力を持っていました。

 人々が死後もそばに置きたいと願うほど、馬も駱駝も重宝されていました。これらの俑は、異国情緒漂う活気に満ちた都の情景をしのばせます。

(聞き手・星亜里紗)


 《松岡美術館》 東京都港区白金台5の12の6(TEL03・5449・0251)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。原則(月)休み。800円。2点は、2019年2月11日まで開催の「中国動物俑の世界」展で展示。

山口さん

学芸員 山口翼

 やまぐち・つばさ 2015年から現職。陶俑や中国陶磁の企画展に携わる。「全国美術館会議」の教育普及研究部会にも参加。

(2018年10月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • カメイ美術館 当館は仙台市に本社をおく商社カメイの第3代社長を務めた亀井文蔵(1924~2011)が半世紀以上かけて収集したチョウをコレクションの柱の一つとし、約4千種、1万4千匹の標本を展示しています。

  • シルク博物館 幕末以来長く横浜港の主要輸出品だった生糸(絹)をテーマに約7千点を所蔵

  • 平山郁夫美術館 平山郁夫(1930~2009)の「アンコールワットの月」は、好んで用いた群青ほぼ一色でカンボジアの遺跡を描いた作品です。

  • 北海道立北方民族博物館 北海道網走市にある当館は、アイヌ民族を含め北半球の寒帯、亜寒帯気候の地域に暮らす民族の衣食住や生業(なり・わい)に関する資料を約900点展示しています。

新着コラム