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キリシタン資料 天草市立天草キリシタン館

陣中旗に残る戦いの傷跡

「綸子地著色聖体秘蹟図指物」16世紀末~17世紀前半。布地は白綸子。縦横108・6センチ
「綸子地著色聖体秘蹟図指物」16世紀末~17世紀前半。布地は白綸子。縦横108・6センチ
「綸子地著色聖体秘蹟図指物」16世紀末~17世紀前半。布地は白綸子。縦横108・6センチ 「原城包囲諸将陣営図」御用絵師・狩野尚信作。江戸時代初期。紙本着色、高さ120×横133センチ

 1637年に起きた島原・天草一揆(島原の乱)の舞台で、その後も長く潜伏キリシタンによる信仰が続いた天草。2018年には世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産の一つとして崎津集落が登録されました。当館は約400点の資料で、同一揆を中心にキリシタン史を紹介しています。

 「綸子地著色聖体秘蹟図指物」は天草四郎が率いた3万7千人の一揆勢の陣中旗。中央には聖杯、その上には聖体を表すパン。天使の衣の翻り方などに日本にキリスト教を伝えたイエズス会のセミナリオ(神学校)系洋画の影響が見受けられます。墨と顔料で描かれ、輪郭や模様の筆遣いは伸びやかですが、聖杯の陰影には不自然な箇所も。作者には諸説ありますが、セミナリオで西洋画を学んだ日本人が描いたのでしょう。参考にしたであろう同じ図柄のメダイ(メダル)も残されています。

 おそらく儀礼用に描かれ、のちに一揆軍の象徴となったようです。血痕や刃物による裂傷から、戦いの激しさが感じられます。一揆勢が籠城した原城から佐賀藩家臣・鍋島大膳が奪取したとされ、1964年に国の重要文化財に指定。キリシタン史、美術史両面において重要な作品です。

 「原城包囲諸将陣営図」は原城を取り囲む幕府軍の陣営図。総攻撃直前に参陣した水野日向守の名から、最終形の布陣と思われます。老中松平伊豆守や細川ガラシャの息子忠利(越中守)の名、船、やぐらの数など事細かに記されているのが特徴です。

(聞き手・下島智子)


 《天草市立天草キリシタン館》 熊本県天草市船之尾町19の52(問い合わせは0969・22・3845)。陣中旗の実物は3、5、8、11月の1~7日に公開(以外はレプリカ)。午前8時半~午後5時(入館は30分前まで)。300円。

平田豊弘

 館長 平田豊弘

 ひらた・とよひろ 天草市文化課文化財保護係長、世界遺産推進室長などを経て2018年4月から現職。

天草市立天草キリシタン館
https://www.city.amakusa.kumamoto.jp/kirishitan/

(2020年2月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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