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ジョルジュ・ルオー パナソニック汐留美術館

絵の具塗り重ね 深み生む

「キリストとの親しき集い」 1952年 油彩
「キリストとの親しき集い」 1952年 油彩
「キリストとの親しき集い」 1952年 油彩 「女曲馬師(人形の顔)」 1925年ごろ 油彩<br>© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2020

 信仰心があつく、キリストの神秘や深い精神性を生涯描き続けたフランスの画家ジョルジュ・ルオー(1871~1958)。2003年開館の当館は、初期から晩年までの絵画や版画など約240点を所蔵しています。世界で唯一ルオーの名を冠した展示室「ルオー・ギャラリー」では、作品を入れ替えながら常設展示しています。

 「キリストとの親しき集い」は、ルオーの宗教性を象徴する作品。窓の外、空に浮かぶのは月と思われ、中央にいるキリストが少女の頭に手をのせています。慈愛や温かみに満ちていますね。晩年の特徴として、画面が盛り上がるほど絵の具を幾重にも塗り重ねています。厚みが出て物質感があり、絵画ながら「聖なるモノ」のようなイメージを抱かせます。

 明るく感じる黄色やオレンジ色の鮮やかな色使いは、「ファンファーレのよう」とも称されるほど。絵そのものが発光しているような輝きを帯びています。色彩が人々の感情を喚起させることを、師事した象徴主義の画家ギュスターブ・モローから学んだのでしょう。本作を描いた1952年は、ルオーの評価が絶頂に達した時期でもありました。

 「女曲馬師(人形の顔)」は中期の作品です。サーカスの道化師や曲芸師も生涯描いた主題の一つ。仮面を着けて舞台に立つ者の悲哀や内面を表現し続けました。透明感のある絵の具を塗っては削るのを繰り返し、背景に青緑色の複雑な階調を生み出しています。

(聞き手・星亜里紗)


 《パナソニック汐留美術館》 東京都港区東新橋1の5の1の4階。午前10時~午後6時。2点は「ルオーと日本展」(新型コロナウイルス感染拡大防止のため会期未定)で展示予定。千円。問い合わせは03・5777・8600。

萩原敦子

 学芸員 萩原敦子

 はぎわら・あつこ 2006年から現職。専門は西洋美術。ルオーやデ・キリコ、ギュスターブ・モローらの展覧会を企画、担当している。

(2020年4月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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