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善通寺宝物館

幼い弘法大師も拝んだ? 如来像

善通寺宝物館
「如来像頭部」塑像 奈良時代(8世紀) 全長46.4センチ
善通寺宝物館 善通寺宝物館

 四国霊場七十五番札所・総本山善通寺(ぜんつうじ)は807年、弘法大師空海が自らの誕生地に建立したと伝えられています。コロナ禍以前は、年間90万人ほどが参拝に訪れていました。1907年創設の宝物館は約2万点の文化財を収蔵し、うち約30点を常設展示しています。

 「如来像頭部(にょらいぞうとうぶ)」は、奈良時代にワラスサ入りの粘土で作られ、元は約3メートルの座像の一部だったと推定されます。1558年、兵火で焼け落ちた東院金堂から救出されたと伝えられ、今は頭部しか残っていません。

 善通寺の前身は、弘法大師が生まれた佐伯家の菩提(ぼだい)寺と考えられ、如来像はその本尊だったと推定されます。大きくうねりの強い目、への字に結んだ口元、豊かな頬の肉感など奈良時代半ばの天平様式をほうふつとさせる威厳のある表情を、幼い日の弘法大師も拝していたことでしょう。

 2023年に大師誕生1250年を迎えるのを記念し、復元プロジェクトを進めています。CTスキャンや3Dスキャナーによる計測データをもとに3Dプリンターで原型を作成、造像当初の姿がよみがえります。

 金銅錫杖頭(こんどうしゃくじょうとう)は弘法大師が入唐の折に、師の恵果(けいか)から授かり持ち帰ったものと伝えられています。錫杖は僧侶が持つことを許された比丘十八物(びくじゅうはちぶつ)の一つです。音により邪悪なものをはらうとされ、山野を歩くときや、法要・儀式などで経を読む際に使われます。中央には表裏に阿弥陀如来像と脇侍(きょうじ)の菩薩(ぼさつ)立像、四天王が配されています。

(聞き手・高田倫子)


 《善通寺宝物館》 香川県善通寺市善通寺町3の3の1。[前]8時~[後]5時(入館は30分前まで)。戒壇めぐりと共通で500円、小中学生300円。金銅錫杖頭は毎年6月13、14日に特別展示予定。電話善通寺(0877・62・0111)。

さかた・ちおう

主任学芸員・教学部長 坂田 知應

 さかた・ちおう 高野山大学大学院修士課程修了。2007年4月から同館勤務。専門は密教美術史。

(2021年6月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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