読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

招き猫ミュージアム

福を呼ぶポーズ・意匠さまざま

招き猫ミュージアム
古瀬戸タイプの招き猫 高さ46センチ
招き猫ミュージアム 招き猫ミュージアム

 金運を始め縁結びや家内安全、健康など様々な福を呼び寄せる招き猫。当館は愛好者でつくる「日本招猫倶楽部」の世話役、板東寛司・荒川千尋夫妻が収集した約5千点のコレクションを所蔵、展示しています。

 招き猫生産の始まりは江戸時代末期、生まれた土地は、江戸という説が有力です。手を上げたポーズは「顔を洗う猫の手が耳を越せば客が来る」という中国の俗信がもとになったと考えられています。暗い所でも目が見え、高い所から落ちても平気な猫に、昔の人は不思議な力があると信じていたことも背景にあるかもしれません。

 旅人の手によって東北から九州まで全国各地に広がりました。右手上げの「金招き」、左手の「人招き」、両手の「両招き」といったポーズの違い、持ち物の違いなど多種多様な招き猫が生まれました。

 3大産地の一つとされる瀬戸(愛知県)の招き猫は100年以上続く歴史と、デザインの多様さに魅力があります。「古瀬戸タイプの招き猫」は、ヨーロッパから導入した石膏型を使う磁器製造技術を応用して、明治30年代後半に誕生しました。

 すらりとした体形と猫背で本物の猫に近い容姿や、控えめな手の上げ方が特徴です。首に着けた前垂れには、多くの福を招くように、複数の鈴をつけていることが多いです。

 これ以前の招き猫は手びねりで、大量生産はできませんでした。瀬戸の招き猫は初めての量産招き猫であり、瀬戸でその後海外向けに作られた陶磁器の人形や置物「セトノベルティ」の原点でもあります。

 現在一般的な招き猫は白地に黒、茶の斑紋が入った三毛猫ですが、「赤色招き猫」など変わった色のものもあります。赤色は、天然痘よけの人形などにも使われる色で、そこから転じて健康や長寿を願う招き猫とされます。

(聞き手・片野美羽)


 《招き猫ミュージアム》 愛知県瀬戸市薬師町2(問い合わせは0561・21・0345)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。300円。古瀬戸タイプは常設、赤色招き猫は「疫病退散!天下安泰!赤い招き猫展」(~9月11日)で展示。原則(火)休み。

いのうえ・みか

学芸員 井上美香 さん

いのうえ・みか 館を運営する陶磁器メーカー・中外陶園に2005年入社、06年から現職。

(2023年1月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

私のイチオシコレクションの新着記事

  • ポーラ美術館 ポーラ創業家2代目・鈴木常司のコレクションを中心とする当館は印象派絵画が知られますが、鈴木は戦後の作品を中心に日本画の収集にも熱心でした。

  • 久能山東照宮博物館 駿河湾に面した山上に徳川家康をまつるため創建された久能山東照宮。境内にある当館は家康が使った机やうちわ、眼鏡などの日用品、徳川歴代将軍の武器・武具などを所蔵しています。中でも甲冑は63領あり、家康から15代慶喜まで全将軍のものがそろいます。

  • 目黒寄生虫館  当館は、戦前の旧満州(中国東北部)で寄生虫研究に従事した医師で医学博士の亀谷了(1909~2002)が、公衆衛生の啓発を目的に1953年に創立しました。寄生虫の分類、形態、生態などの研究を行い、人体との関わりや寄生虫の多様な姿を約300点の標本と資料で紹介しています。入館無料ですが、ご来館の際は寄付へのご協力をお願いしています。

  • 黒田記念館 教科書にも掲載される「湖畔」で知られる黒田清輝(1866~1924)が10代でフランスに渡ったのは法律家を志してのことでした。パリで画家や画商らと交流するうちに、幼い頃から関心があった絵画の道に進もうと決心、そこから約8年間滞在して油彩画を学びました。

新着コラム