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日本・モンゴル民族博物館

命と向き合う遊牧民の暮らし

ゲル 1990年代半ば(推定) 直径約5・4、高さ約2・6~2・8メートル
ゲル 1990年代半ば(推定) 直径約5・4、高さ約2・6~2・8メートル
ゲル 1990年代半ば(推定) 直径約5・4、高さ約2・6~2・8メートル D.ウルタナサン、G.バルスボルド「上天より命ありて生まれたる蒼き狼」(部分) 2002年 紙、アクリル 縦1・38、横5・57メートル

 当館は兵庫県北部、山あいの豊岡市但東町にあります。モンゴルとの縁は1980年代、町おこしの一環で交流が始まったのがきっかけ。その後、在モンゴル日本大使館の元職員、金津匡伸さん(故人)が現地で収集した資料の寄贈を受けて96年に開館しました。

 「ゲル」はモンゴルの遊牧民が暮らすドーム状の組み立て式住居で、木製の骨組みに羊毛フェルトと布をかぶせています。

 モンゴルの遊牧民は主に馬、ラクダ、牛、ヤギ、羊を、大家族なら数百頭を飼育し、季節に応じて牧草地を移動します。3、4人が1~2時間ほどでゲルを組み立てられるといいますが、私たちが挑戦した時は8時間もかかりました。

 ゲルは保温性に優れ、最低気温が零下40度という極寒の冬でも屋内は快適に過ごせます。神聖とされる一番奥には仏具などが飾られ、中央にかまど、左右にベッドが置かれます。入って左手は馬具や家畜の調教具を置く男性の空間、右手は食事や乳製品を作る女性の空間とされています。

 玄関の扉に描かれた模様は羊の角がモチーフで、家畜が増えることや長寿、幸福を願う意味が込められています。このような模様は柱や机にも見られ、家畜の命と向き合う暮らしが反映されています。

 近年はソーラーパネルや携帯電話の普及に伴い、ゲルの中でテレビやインターネットを楽しむことも身近になっています。

 「上天(あまつかみ)より命(みこと)ありて生まれたる蒼(あお)き狼(おおかみ)」は、モンゴルの画家が当館に滞在し、約1年かけて制作しました。幅約6メートルにわたり、モンゴル高原の諸部族を統一したチンギス・ハーンの生涯が描かれています。戦いに強く統治能力も高かったチンギス・ハーンは、今もモンゴル人の誇りです。

(聞き手・深山亜耶)


 《日本・モンゴル民族博物館》兵庫県豊岡市但東町中山711(☎0796・56・1000)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。500円。原則(水)、年末年始休み。 

あさくら・ゆみ

学芸員 朝倉由美 さん

あさくら・ゆみ 1967年大阪府生まれ。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)通信教育部芸術学科卒業。2013年から現職。

日本・モンゴル民族博物館
https://www3.city.toyooka.lg.jp/monpaku/index.html

(2024年5月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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