「炊飯器見つけて、フタ開けてみたら、真っ黒いヘドロが詰まってたの。それ捨てたらね、一緒に真っ白いごはんが出てきたのね……夜の分、残してたの……涙出たよ」
東日本大震災の津波で壊れた炊飯器の展示に添えたのは、多くの被災者の声を基に考えた「物語」です。
美術館は地域の芸術文化に加えて、歴史や暮らし、そして大震災の記憶を一体として伝えることを目的としています。震災5日目から2年間、被災地の記録調査で撮影した写真と集めた被災物などから約500点を選び、常設展「東日本大震災の記録と津波の災害史」を2013年から続けています。
がれきにしか見えないタイル片も被災者には自宅を確認する手段だったりします。津波で壊れた家電にも物語があるはず。持ち主は不明なので実際の話は分からないですが、調査収集の過程で聞くなどした被災者の話を参考に物語を紡ぎ、はがき大にまとめて被災物と展示しています。
来館者は物語を読むことで被災物の向こうにある毎日の食卓、家族の会話、何十年も続いてきた暮らしなど自分の家や家族の思い出と重ね合わせられるのです。被災物に自身の記憶を投影し、自分事として「失われたものの大きさ」を実感してもらう。その共感を生み出すことが狙いです。
ほかにも、14年に開いた特別展「震災と表現」で芸術家に依頼した作品も展示しています。野又圭司氏の「斜塔の再建」は鉛で覆われた箱の中に斜塔が収められた作品です。「斜塔を再び斜めに建て直すの?」と問う作品は、復旧・復興や原発事故などに感じた違和感が表現されています。
「この展示、インスタレーションだね」という人もいますが、個々の物を見せているつもりはありません。これからを生きる人々に震災を自身の問題として受け止め、災害への備えや地域の未来を考えてもらいたい。多種多様な表現が可能な美術館ならではの方法で記憶と表現を結びつける展示を続けていきます。
(聞き手・倉持裕和)
《気仙沼市 リアス・アーク美術館》 宮城県気仙沼市赤岩牧沢138の5(☎0226・24・1611)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。700円。原則月火と祝の翌日(土日祝除く)、年末年始休み。
館長 山内宏泰さん やまうち・ひろやす 宮城県石巻市出身。宮城教育大大学院中退。リアス・アーク美術館学芸員を経て、2021年から現職。全国美術館会議理事。著書に明治三陸地震を描いた小説「砂の城」(近代文芸社)など。 |