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街の十八番

三富染物店@三浦半島

大漁旗から応援旗まで

店裏で旗を干す三冨實仁さん(左)と由貴さん。飾り旗2万8千円~。ミニ大漁旗作りの体験も
店裏で旗を干す三冨實仁さん(左)と由貴さん。飾り旗2万8千円~。ミニ大漁旗作りの体験も
店裏で旗を干す三冨實仁さん(左)と由貴さん。飾り旗2万8千円~。ミニ大漁旗作りの体験も 高校野球の応援旗にデザインされたタカに色を塗っていく

 神奈川県・三浦半島突端の三崎港から潮の香りがする。店のショーウィンドーには大漁旗が飾られていた。

 店に残る古文書から天保4(1833)年にはすでに幕府の御用職人だったことがわかる。6代目の三冨實仁(みとみじつひと)さん(73)は「さかのぼれば先祖は、戦ののぼりを製作していたんじゃないかな」。

 遠洋マグロ漁の漁業基地、三崎港では1970年代ごろまで、新船のお披露目時に大漁旗がたなびく姿がよく見られ、仕事も大半が大漁旗だった。東日本大震災翌年は岩手・釜石や宮城・気仙沼からの注文が続いた。「大漁旗は復興の象徴だったのでしょう」と長男の由貴(よしたか)さん(37)。近年は、子どもの節句の祝いや学生スポーツ大会の応援旗の需要が4割を占めている。

 下絵の輪郭に沿ってぬかともち米を煮たのりを絞り出しながら塗る「のりおき」は實仁さんが主に担う。色と色の間に白い境目を作る重要な作業だ。このあと、顔料で着色し、天日で乾かす。由貴さんは「のりおきは15年目の私でもまだまだ。一絞りが真剣勝負」。

(文・写真 佐藤直子)


 ◆神奈川県三浦市三崎1の10の9(TEL046・881・2791)。午前8時~午後8時。不定休。三崎口駅からバス。

(2017年4月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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