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街の十八番

矢切の渡し@千葉・松戸 東京・柴又

演歌のヒットで一躍人気に

約7メートルの櫓を巧みに操る杉浦勉さん
約7メートルの櫓を巧みに操る杉浦勉さん
約7メートルの櫓を巧みに操る杉浦勉さん 客を運ぶ尊さん。背後に柴又側の渡し場が見える。片道の運賃は中学生以上200円、4歳~小学生100円。強風時や混雑時は船外機を使う

 30人乗りの手こぎ舟が江戸川を静かに横切る。都内に唯一残る渡し舟「矢切の渡し」だ。千葉県松戸市下矢切、東京都葛飾区柴又間の約150メートルを片道5分で結ぶ。江戸初期に幕府が農民のために設けた渡し場が起源。「明治の初めから杉浦家が船頭をするようになったと聞いている」と4代目の杉浦勉さん(61)。大学卒業後、今は亡き父・正雄さんと共に植木職人をしながら運営してきた。松戸側では小さな売店も営む。

 矢切の渡しが知られるようになったのは1969年公開の映画「男はつらいよ」第1作。寅さんが故郷の柴又へ帰ってくるシーンに使われた。83年には細川たかしさんらが歌った演歌「矢切の渡し」が大ヒット。渡し舟の存在は全国的に広まった。「あの頃は2千人以上の客を乗せた日もあった。ほぼ休みなく働いてたね」

 今も各地から観光客が訪れる。柴又側から往復で乗る客が多いが、年末年始は柴又帝釈天への参拝客で松戸側も客が列をなす。共に櫓(ろ)を握る長男の尊(たける)さん(26)には「お客さんの安全を第一に」と教えている。

(文・写真 牧野祥)


 ◆(土)(日)(祝)と12月29日~1月7日の午前10時~午後4時。雨天・荒天日は休み。3月中旬~11月は毎日(7、8月は(月)(火)休み)。問い合わせは杉浦さん(047・363・9357)。

(2018年12月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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